2024年04月12日
「これにて失礼する。」
「これにて失礼する。」
「西郷。」
障子に手をかけ出ようとしたところを桂が呼び止めた。西郷は何だと顔だけ桂に向けた。
「待たせてすまなかった。これからよろしく頼む。」
畳に擦り付けるまでは行かないが桂は深く頭を下げた。
一瞬目を見開いた西郷は“あぁ”と一言だけ残して部屋を出た。
西郷の足音が消えたのを確認して桂は部屋を飛び出した。一目散に三津の居る部屋に走った。
「桂さん!待ってくれ!」
その後を坂本が追いかけると取り乱した桂が女中を捕まえて声を荒げていた。
「ここに居た娘は!?」
「あっあっあのお方なら中岡様ともう屋敷を出られましたっ……!」 https://community.joomla.org/events/my-events/zuo-rino-shi-jueechoran.html https://mathewanderson.livedoor.blog/archives/2550853.html http://mathewanderson.zohosites.com/
凄い剣幕で詰め寄られた女中は泣きそうな顔でそう告げた。殺される!と言わんばかりの怯えっぷり。
「いつだ!?いつ出た!?」
「半刻ほど前に……。」
「そんな前にっ!坂本さん!三津はずっと中岡君がついてるんだね!?一人になる事はないんだね!?」
今度はくるりと振り返って坂本に掴みかかった。
「落ち着いてくれ!お嬢ちゃんをこんな危険な土地で一人にはせん!中岡が責任持ってこっちが用意した宿に連れてっとるけん安心せい。」
「どこの宿ですか!」
桂は早く連れて行けと坂本を引きずりながら小松邸を飛び出した。
坂本が自分達の世話になっている宿だから大丈夫だと宥めながら桂を案内した。
「遅かったな。何を長々話しとったんや。」
宿の部屋では中岡がどうせまた何か熱弁してたんだろうと呆れ顔で寛いでいた。
「中岡君!三津は!?」
「お嬢ちゃんは別の場所に。」
「何処だ!」
桂は中岡の両肩を掴んでずいっと顔を寄せた。その必死さに中岡も坂本も苦笑いするしかなかった。
「桂さん,三津さんと何があったかは知らんがここに来る条件として居場所は絶対に教えんっちゅう約束なんです。
向こうでも探すのに苦労した。奇兵隊の面々も全然居場所は言うてくれんかったき。」
「どうやって見つけたんですか……。」
自分に教えてくれないのは分かるが中岡にも言わないなんて,絶対に三津と会わせたくないと言う強い意志を感じて胸が痛かった。
「明確な場所は教えてくれなんだが探し方は教えてくれたき。じゃけぇ私も助言だけ。三津さんは京で唯一安心出来るっちゅう場所に帰りました。」
「唯一安心出来る場所……。中岡君,恩に着る。」
それだけで充分だ。桂は中岡と坂本に一礼するとすぐに宿を飛び出した。
それを見た坂本は豪快に笑った。あの色男でさえ三津の事となるとただの男だ。『三津が唯一安心出来る場所……。』
新選組を警戒してるなら功助とトキの元へは帰らない。だったら三津の帰る場所はただ一つ。桂は全力で京の町を駆け抜けた。
『明かりが……灯ってる……。』
ここへ帰るのはいつぶりだろうか。三津も京を離れ主の居ない家なのにその様子は住んでいた時のまま。
『そうだ……サヤさんだ……。』
三津はサヤとアヤメに留守を託していた。時折お礼の品を贈っていたのを思い出した。
中に居るのはサヤだろうか。桂は恐る恐る玄関の前に立った。微かに中から声が洩れてくる。その声に耳を澄ませた。
女子達の笑う声。その中に愛しい声を見つけた。確信を得たと同時に桂は中に踏み込んでいた。
突然戸の開いた音と中に駆け込んでくる足音に三人は体と顔を強張らせて部屋の隅で身を寄せていた。
「西郷。」
障子に手をかけ出ようとしたところを桂が呼び止めた。西郷は何だと顔だけ桂に向けた。
「待たせてすまなかった。これからよろしく頼む。」
畳に擦り付けるまでは行かないが桂は深く頭を下げた。
一瞬目を見開いた西郷は“あぁ”と一言だけ残して部屋を出た。
西郷の足音が消えたのを確認して桂は部屋を飛び出した。一目散に三津の居る部屋に走った。
「桂さん!待ってくれ!」
その後を坂本が追いかけると取り乱した桂が女中を捕まえて声を荒げていた。
「ここに居た娘は!?」
「あっあっあのお方なら中岡様ともう屋敷を出られましたっ……!」 https://community.joomla.org/events/my-events/zuo-rino-shi-jueechoran.html https://mathewanderson.livedoor.blog/archives/2550853.html http://mathewanderson.zohosites.com/
凄い剣幕で詰め寄られた女中は泣きそうな顔でそう告げた。殺される!と言わんばかりの怯えっぷり。
「いつだ!?いつ出た!?」
「半刻ほど前に……。」
「そんな前にっ!坂本さん!三津はずっと中岡君がついてるんだね!?一人になる事はないんだね!?」
今度はくるりと振り返って坂本に掴みかかった。
「落ち着いてくれ!お嬢ちゃんをこんな危険な土地で一人にはせん!中岡が責任持ってこっちが用意した宿に連れてっとるけん安心せい。」
「どこの宿ですか!」
桂は早く連れて行けと坂本を引きずりながら小松邸を飛び出した。
坂本が自分達の世話になっている宿だから大丈夫だと宥めながら桂を案内した。
「遅かったな。何を長々話しとったんや。」
宿の部屋では中岡がどうせまた何か熱弁してたんだろうと呆れ顔で寛いでいた。
「中岡君!三津は!?」
「お嬢ちゃんは別の場所に。」
「何処だ!」
桂は中岡の両肩を掴んでずいっと顔を寄せた。その必死さに中岡も坂本も苦笑いするしかなかった。
「桂さん,三津さんと何があったかは知らんがここに来る条件として居場所は絶対に教えんっちゅう約束なんです。
向こうでも探すのに苦労した。奇兵隊の面々も全然居場所は言うてくれんかったき。」
「どうやって見つけたんですか……。」
自分に教えてくれないのは分かるが中岡にも言わないなんて,絶対に三津と会わせたくないと言う強い意志を感じて胸が痛かった。
「明確な場所は教えてくれなんだが探し方は教えてくれたき。じゃけぇ私も助言だけ。三津さんは京で唯一安心出来るっちゅう場所に帰りました。」
「唯一安心出来る場所……。中岡君,恩に着る。」
それだけで充分だ。桂は中岡と坂本に一礼するとすぐに宿を飛び出した。
それを見た坂本は豪快に笑った。あの色男でさえ三津の事となるとただの男だ。『三津が唯一安心出来る場所……。』
新選組を警戒してるなら功助とトキの元へは帰らない。だったら三津の帰る場所はただ一つ。桂は全力で京の町を駆け抜けた。
『明かりが……灯ってる……。』
ここへ帰るのはいつぶりだろうか。三津も京を離れ主の居ない家なのにその様子は住んでいた時のまま。
『そうだ……サヤさんだ……。』
三津はサヤとアヤメに留守を託していた。時折お礼の品を贈っていたのを思い出した。
中に居るのはサヤだろうか。桂は恐る恐る玄関の前に立った。微かに中から声が洩れてくる。その声に耳を澄ませた。
女子達の笑う声。その中に愛しい声を見つけた。確信を得たと同時に桂は中に踏み込んでいた。
突然戸の開いた音と中に駆け込んでくる足音に三人は体と顔を強張らせて部屋の隅で身を寄せていた。
2024年04月12日
年が明けて三津は一之助と約束通り初詣に来た。
年が明けて三津は一之助と約束通り初詣に来た。
「本当に俺なんかと来て良かったんか?」
「はい!私は嬉しいですけど……一之助さんこそ毎日お店で顔合わせてるのに新年早々私と一緒でいいんですか?たまには別の女の子と出掛けたり……。」
三津が最後まで言い終わる前にカッと目を見開いて,
「絶対嫌じゃ!」
と声を張り上げた。その気迫に三津はすみませんと仰け反りながら謝った。
「女子は好かん……。」
「あー私は女として色気欠けてるのは自負してます。」
「違っ!女として見とらんって意味やなくてっ!いや!だからと言ってそういう目で見ちょるんでもなくてっ!」
急にあたふたしだした姿にぽかんとしてからふっと吹き出した。http://carinacyril.blogg.se/2024/april/entry.html https://paul.asukablog.net/Entry/4/ https://paul.3rin.net/Entry/4/
「分かってますよ。女とかやなくて仕事仲間として見てくれてはるんですよね?」
「まぁ……そう言う事や……。去年は入江さんとお参りしたんか?」
「去年……そうです。九一さんと二人で迎えた元日でしたね。その時私は幕府側に追われてたんで外に出るのが憚られたんですけど,九一さんは私の事考えながらあちこち連れ出してくれて……。」
三津はその思い出に目を細めた。その穏やかな横顔に一之助の胸は締め付けられた。入江を思い浮かべてあの顔をしてるのかと思うと苦しくなった。
「桂様との思い出は……。」
そこまで言葉にしてハッと口を手で押さえた。
「あの人とは……。あるようなないような……。」
『あの人って……。』
酔って本音を出した時は“小五郎さん”と言っていたのに今はその名すら言わない。
「すまん……。あっ三津さん甘酒好き?お参りしたら飲んでかん?」
一之助はおどおどしながらすぐ近くの茶屋を指差した。三津はにっと笑って飲みたいと言った。その表情に一之助はほっと胸を撫で下ろした。
参拝した後で二人は甘酒片手に長椅子に腰を下ろした。一之助は湯気の立つ器にふぅふぅと息をかけて口をつける姿を眺めた。
『咄嗟に思いついて飲んどるけど……。これ子孫繁栄とかの縁起物やったような……。』
「三津さん甘酒飲む意味知っとる?」
「体に良いですよね。夏によく飲んでましたよ。」
『良かった……変な意味に捉えられとらんかった……。』
ただ誰かに見られていたら冷やかしの元になる。それは厄介だ。
でもちらりと横目で見れば,美味しいねと無邪気に笑う顔にどうにでもなるかと思ってしまった。
「飲んだら帰ろか。」
「はい。」
「ちょっと散歩して帰ろか。」
ちょっとだけ欲を出した。少しだけ川沿いを散歩した。三津はにこにこしながらついて来たが,たまに物憂げに川を見つめた。その様子が一之助には引っかかった。
「川に何か思い出あるんか?」
「ちょっとだけ……。ここやなくて京の川ですけど……。」
「まだ好きやのにそんな無理して忘れないけんそ?」
一之助はまたハッとして手で口を押さえた。何でもかんでも思った事を吐き出す癖を何とかしなければと思いながら三津の様子を窺った。
「九一さんには忘れるんやなくて思い出として置いておける場所を作ればいいって言われました。なので思い出を整理してる最中です。
思い出して感傷に浸るんやなくて,あーそんな事あったなぁって他人事みたいに思えるぐらいにしようとしてて……。」
三津は今の状態を誠実に答えた。そう思う為には桂がくれた思い出以上の物をどんどん増やしていきたいのだと言った。だから今日誘ってもらえたのは凄く嬉しかったんだと。
「そう言う手伝いならいくらでもしちゃる。入江さんがおらん分,俺も手助けしちゃるけぇ。」
遠慮なんかするなと真っ直ぐな言葉をぶつけた。目の前の三津は驚いたような目で見てきたが,すぐにいつものように目を細めた。
「ありがとうございます。」
「思っとる事も言うて。」
入江がどんな言葉をかけてどんな風に接してきたかは分からない。今まで女子を避けてきたからどんな言葉をかければ喜ぶかも知らない。
それでも力になりたいと一之助には精一杯気持ちをぶつけた。
すると三津は表情に影を落としてぽつりぽつりと話し始めた。
「本当に俺なんかと来て良かったんか?」
「はい!私は嬉しいですけど……一之助さんこそ毎日お店で顔合わせてるのに新年早々私と一緒でいいんですか?たまには別の女の子と出掛けたり……。」
三津が最後まで言い終わる前にカッと目を見開いて,
「絶対嫌じゃ!」
と声を張り上げた。その気迫に三津はすみませんと仰け反りながら謝った。
「女子は好かん……。」
「あー私は女として色気欠けてるのは自負してます。」
「違っ!女として見とらんって意味やなくてっ!いや!だからと言ってそういう目で見ちょるんでもなくてっ!」
急にあたふたしだした姿にぽかんとしてからふっと吹き出した。http://carinacyril.blogg.se/2024/april/entry.html https://paul.asukablog.net/Entry/4/ https://paul.3rin.net/Entry/4/
「分かってますよ。女とかやなくて仕事仲間として見てくれてはるんですよね?」
「まぁ……そう言う事や……。去年は入江さんとお参りしたんか?」
「去年……そうです。九一さんと二人で迎えた元日でしたね。その時私は幕府側に追われてたんで外に出るのが憚られたんですけど,九一さんは私の事考えながらあちこち連れ出してくれて……。」
三津はその思い出に目を細めた。その穏やかな横顔に一之助の胸は締め付けられた。入江を思い浮かべてあの顔をしてるのかと思うと苦しくなった。
「桂様との思い出は……。」
そこまで言葉にしてハッと口を手で押さえた。
「あの人とは……。あるようなないような……。」
『あの人って……。』
酔って本音を出した時は“小五郎さん”と言っていたのに今はその名すら言わない。
「すまん……。あっ三津さん甘酒好き?お参りしたら飲んでかん?」
一之助はおどおどしながらすぐ近くの茶屋を指差した。三津はにっと笑って飲みたいと言った。その表情に一之助はほっと胸を撫で下ろした。
参拝した後で二人は甘酒片手に長椅子に腰を下ろした。一之助は湯気の立つ器にふぅふぅと息をかけて口をつける姿を眺めた。
『咄嗟に思いついて飲んどるけど……。これ子孫繁栄とかの縁起物やったような……。』
「三津さん甘酒飲む意味知っとる?」
「体に良いですよね。夏によく飲んでましたよ。」
『良かった……変な意味に捉えられとらんかった……。』
ただ誰かに見られていたら冷やかしの元になる。それは厄介だ。
でもちらりと横目で見れば,美味しいねと無邪気に笑う顔にどうにでもなるかと思ってしまった。
「飲んだら帰ろか。」
「はい。」
「ちょっと散歩して帰ろか。」
ちょっとだけ欲を出した。少しだけ川沿いを散歩した。三津はにこにこしながらついて来たが,たまに物憂げに川を見つめた。その様子が一之助には引っかかった。
「川に何か思い出あるんか?」
「ちょっとだけ……。ここやなくて京の川ですけど……。」
「まだ好きやのにそんな無理して忘れないけんそ?」
一之助はまたハッとして手で口を押さえた。何でもかんでも思った事を吐き出す癖を何とかしなければと思いながら三津の様子を窺った。
「九一さんには忘れるんやなくて思い出として置いておける場所を作ればいいって言われました。なので思い出を整理してる最中です。
思い出して感傷に浸るんやなくて,あーそんな事あったなぁって他人事みたいに思えるぐらいにしようとしてて……。」
三津は今の状態を誠実に答えた。そう思う為には桂がくれた思い出以上の物をどんどん増やしていきたいのだと言った。だから今日誘ってもらえたのは凄く嬉しかったんだと。
「そう言う手伝いならいくらでもしちゃる。入江さんがおらん分,俺も手助けしちゃるけぇ。」
遠慮なんかするなと真っ直ぐな言葉をぶつけた。目の前の三津は驚いたような目で見てきたが,すぐにいつものように目を細めた。
「ありがとうございます。」
「思っとる事も言うて。」
入江がどんな言葉をかけてどんな風に接してきたかは分からない。今まで女子を避けてきたからどんな言葉をかければ喜ぶかも知らない。
それでも力になりたいと一之助には精一杯気持ちをぶつけた。
すると三津は表情に影を落としてぽつりぽつりと話し始めた。
2024年04月12日
「その……喧嘩別れした相手ってのは……。」
「その……喧嘩別れした相手ってのは……。」
「桂様よ。」
「は!?」
文の一言にさらに目を見開いて三津を見た。この反応を予測出来てた四人はとりあえず食べようかと合掌をして箸を手に持った。
「一之助さんは呑んで落ち着き。」
文がしれっとお猪口を持たせて酒を注いだ。一之助は動揺を隠せずにその酒を一気に飲み干した。
「ほっ本当に桂様の?」
「嘘ついてごめんなさい……。」
三津がしゅんと背中を丸くして謝った。https://note.com/carinacyril786/n/n2a8f005df863?sub_rt=share_pb https://community.joomla.org/events/my-events/o-qian-guisan-jui-weiunka.html https://carinacyril786.livedoor.blog/archives/2531144.html
「三津さんは悪くない。私が勝手についた嘘やけぇ。ただでさえ京から来たってだけで珍しがられるのは目に見えちょったし,それに加えて桂様の相手やなんて知れたらもっと好奇の目に晒されたやろうから……。一之助さんごめんね。」
文に頭を下げられて一之助はとんでもないとぶんぶん首を振った。
「文ちゃんがそうするのは理解出来る。それで良かったと思う。やけん俺もこの事は他言せん……。ただ入江さんと本当に恋仲に見えたけそれがびっくりしたって言うか……。」
「フサも入江さんと姉上はお似合いと思ってます。」
「それで昨日は愚兄と進展あったそ?」
すみの単刀直入な質問に全員の視線が三津に向けられた。
「あの……そう言う雰囲気にはなったんですけど……私が……。私が……九一さんを小五郎さんって呼んでしまって……。言葉と仕草が重なって……無意識にそう呼んで……。私最低……。」
三津が膝の上で拳を握り肩を揺らして泣き出した。
「三津さん,悪い事は呑んで忘れり。」
文はすかさず三津に酒を手渡して呑ませた。素直にそれを呑んだ三津は溢れる涙を必死に拭った。すみも傍によって大丈夫大丈夫と唱えながら頭を撫でた。
「うちの愚兄それで何か言った?」
「笑って許してくれました……。私の覚悟が決まるまで最後まではしないって……。」
「……最後まではせんかったけど何かはされたん?」
妙な言い方が気になったすみが問うと三津は素直に頷いた。
「胸は舐められました……。」
「はぁー!やっぱど変態やな!三津さんごめん。うちの愚兄がごめん。」
すみは怒りに震えたが文とフサはちょっと頑張ったのね入江さんと悠長に呟いた。一之助はどう反応していいか分からず輪の中で硬直していた。
「大丈夫……やめてって言ったらやめてくれたんで……。それに今回は私も覚悟してたつもりやのにあの人の名前呼んじゃったし……。それでも怒らんかった入江さんが優し過ぎる……。」
そう言って泣き続けるから文は呑んで忘れろと更にお酒を呑ませた。「桂様に未練はないそ?」
あれから一月ほど経って三津の心境はどう変わったのか確かめたい。文が静かに話しかけると三津はしばらく黙り込んでから口を開いた。
「分かりません……。また迎えに来てくれるんちゃうかって思う時もたまにあります……。でもここにいる方が確実に幸せなんです。あの人の傍は苦しいだけ……。」
最後の一言にまだ桂への未練を感じた。きっとそう言い聞かせて忘れようとしてるだけなのだと。
「今も苦しいんやろ?」
「苦っ……しいっ!九一さんの事は好きなのに……あの人の面影をどこかに探してるのっ……。あんな終わり方したのにっ私の事,大事にしてくれてた時の思い出が重なるのっ……。まだ……そこに居るの……。」
三津は泣きじゃくって本音を吐き出した。普段の姿からでは想像できない本音だった。
いつもの振る舞いを見てるともうすでに記憶の片隅に居るか居ないかの過去の人になってるように思えていた。
だけど本心は忘れてないどころか想いも断ち切れてないように聞こえた。
「ごめんねごめんね。辛いこと聞いてごめんね。もうゆっくり休んだらいいけぇ。」
文は三津の背中を擦りながら寝ていいよと膝を貸した。三津はいつものようにすぐに眠りに落ちた。
「えっ寝たん?」
一之助は目の前の光景が異様すぎて呆気にとられた。
「桂様よ。」
「は!?」
文の一言にさらに目を見開いて三津を見た。この反応を予測出来てた四人はとりあえず食べようかと合掌をして箸を手に持った。
「一之助さんは呑んで落ち着き。」
文がしれっとお猪口を持たせて酒を注いだ。一之助は動揺を隠せずにその酒を一気に飲み干した。
「ほっ本当に桂様の?」
「嘘ついてごめんなさい……。」
三津がしゅんと背中を丸くして謝った。https://note.com/carinacyril786/n/n2a8f005df863?sub_rt=share_pb https://community.joomla.org/events/my-events/o-qian-guisan-jui-weiunka.html https://carinacyril786.livedoor.blog/archives/2531144.html
「三津さんは悪くない。私が勝手についた嘘やけぇ。ただでさえ京から来たってだけで珍しがられるのは目に見えちょったし,それに加えて桂様の相手やなんて知れたらもっと好奇の目に晒されたやろうから……。一之助さんごめんね。」
文に頭を下げられて一之助はとんでもないとぶんぶん首を振った。
「文ちゃんがそうするのは理解出来る。それで良かったと思う。やけん俺もこの事は他言せん……。ただ入江さんと本当に恋仲に見えたけそれがびっくりしたって言うか……。」
「フサも入江さんと姉上はお似合いと思ってます。」
「それで昨日は愚兄と進展あったそ?」
すみの単刀直入な質問に全員の視線が三津に向けられた。
「あの……そう言う雰囲気にはなったんですけど……私が……。私が……九一さんを小五郎さんって呼んでしまって……。言葉と仕草が重なって……無意識にそう呼んで……。私最低……。」
三津が膝の上で拳を握り肩を揺らして泣き出した。
「三津さん,悪い事は呑んで忘れり。」
文はすかさず三津に酒を手渡して呑ませた。素直にそれを呑んだ三津は溢れる涙を必死に拭った。すみも傍によって大丈夫大丈夫と唱えながら頭を撫でた。
「うちの愚兄それで何か言った?」
「笑って許してくれました……。私の覚悟が決まるまで最後まではしないって……。」
「……最後まではせんかったけど何かはされたん?」
妙な言い方が気になったすみが問うと三津は素直に頷いた。
「胸は舐められました……。」
「はぁー!やっぱど変態やな!三津さんごめん。うちの愚兄がごめん。」
すみは怒りに震えたが文とフサはちょっと頑張ったのね入江さんと悠長に呟いた。一之助はどう反応していいか分からず輪の中で硬直していた。
「大丈夫……やめてって言ったらやめてくれたんで……。それに今回は私も覚悟してたつもりやのにあの人の名前呼んじゃったし……。それでも怒らんかった入江さんが優し過ぎる……。」
そう言って泣き続けるから文は呑んで忘れろと更にお酒を呑ませた。「桂様に未練はないそ?」
あれから一月ほど経って三津の心境はどう変わったのか確かめたい。文が静かに話しかけると三津はしばらく黙り込んでから口を開いた。
「分かりません……。また迎えに来てくれるんちゃうかって思う時もたまにあります……。でもここにいる方が確実に幸せなんです。あの人の傍は苦しいだけ……。」
最後の一言にまだ桂への未練を感じた。きっとそう言い聞かせて忘れようとしてるだけなのだと。
「今も苦しいんやろ?」
「苦っ……しいっ!九一さんの事は好きなのに……あの人の面影をどこかに探してるのっ……。あんな終わり方したのにっ私の事,大事にしてくれてた時の思い出が重なるのっ……。まだ……そこに居るの……。」
三津は泣きじゃくって本音を吐き出した。普段の姿からでは想像できない本音だった。
いつもの振る舞いを見てるともうすでに記憶の片隅に居るか居ないかの過去の人になってるように思えていた。
だけど本心は忘れてないどころか想いも断ち切れてないように聞こえた。
「ごめんねごめんね。辛いこと聞いてごめんね。もうゆっくり休んだらいいけぇ。」
文は三津の背中を擦りながら寝ていいよと膝を貸した。三津はいつものようにすぐに眠りに落ちた。
「えっ寝たん?」
一之助は目の前の光景が異様すぎて呆気にとられた。
2024年04月02日
入江の心の痛みが声を通して伝わってくる
入江の心の痛みが声を通して伝わってくる。好きと言うたったこれだけの感情がどうしてこんなに苦しみを与えてくるんだ。
入江の腕の中でふと父親がかけてくれたまじないを思い出した。
幼い頃,転んで痛いと泣いていた自分にかけてくれた言葉。
痛いの痛いの飛んでいけ。
これは心にも有効だろうか。今してあげられる事が分からなくて,子供騙しなまじないを心で唱えながらゆっくりと入江の背中を撫でた。
入江にこの痛みを与えているのは紛れもなく自分だと自覚はしている。 http://kiya.blog.jp/archives/24341447.html https://note.com/ayumu6567/n/n260d3e885a3f?sub_rt=share_pb https://community.joomla.org/events/my-events/ru-jiangno-wanno-zhongdefuto-fu-qingakaketekuretamajinaiwo-sii-chushita.html
入江を楽にするのも苦しめるのもこの私なんだ。自分でも酷い女だとしか言いようがない。
しばらく撫でていると徐々に腕が緩んできた。それから入江は三津の手を取り無言で歩き出した。
二人は海へ出て肩を並べて座り,何を言う事もなくずっと前だけを見ていた。
「私達のこの先に正解はあるんか?」
「分かりません……。多分正解なんてないと思います。でも答えはあると思うんです。
その答えも一つだけやなくて何通りもあって,それが正しいのか間違いなのか誰にも分からんから,選んだ答えが正しかったって自分で肯定するしかないんちゃいますかねぇ……。」
「難しいわ。考えるの嫌になって来たから帰ろ。」
三津も苦笑いでそうですねと立ち上がった。それから二人で大きな溜息をついた。
「文ちゃんに問い詰められたら素直に答えるか……。」
「それがいいです……。誤魔化しは効きませんから……。何か答えに繋がるお告げとかくれそう……。」
二人は閻魔のお告げを貰いに帰路を辿った。二人が家に戻ると文がちょうど洗濯物を取り込んでいたからそれを手伝って居間で三人で畳み始めた。
「で?重苦しい空気引っ提げて帰って来てどうしたん?」
「昨日の夜お前に言われた事真剣に考えて三津さんに伝えたそっちゃ。結局二人で悩んでも何も前に進まんかったそ。」
「似た者同士で悩んでもそりゃ何も進展せんわ。二人共何だかんだ言って今の関係がちょうどいいんやろ?」
二人は驚いた顔で頷いた。文はやっぱりなとからから笑った。分かりやすくて助かるとまで言った。
「三津さんは桂様の事許せそう?他の女抱いて孕ませたって言うの帳消しにして営み出来る?」
相変わらず文は鋭い所を突くなと二人は苦笑したがそこも重要な所だ。
「そう言われると許せる気がしいひん……。私根に持つんで。多分喧嘩したり嫌な事あるとすぐ思い出してまいそう……。」
「普通はそうよ。私も今だにこの人から受けた嫌がらせ根に持っとるぐらいやけぇ。」
文はどす黒い笑みで入江を見たが入江はすぐさま視線を外した。
「引きずりながら傍に居って嫌な思いするぐらいならこの際二人とも選ばんって言う手もあるで?その代わり二人には絶対体を許しちゃいけんけど。許したらただの都合のいい女にされてしまうけ。」
「どっちも選ばない……。あぁ悩むぐらいなら一人の方が楽かもですね。」
「やろ?私も主人と結婚して七年やけど主人がこの家におったのたった二年やけぇほぼ一人よ。もうそれに慣れたけぇ一人がいいわ楽で。」
「たった二年……。」
別に驚く事でもない。忙しくあちこち足を運んでる姿を見れば想像はつく。もし桂と夫婦になったとしても自分も文と同じ立場になるんだろう。
だとしたら夫婦である意味は?と思ってしまう。
「夫婦で良かったと思える事って何ですか?」
長く一緒に暮らしてもない,子もいない文にこんな事を聞くのは失礼になるのではと思ったが文はそうねぇと嫌な顔もせず考えた。
「同じ名字をもらえた事やろか。悲しいけどこれだけが私が主人の妻って証やから。
別に良かったのはこれだけやないのよ?思い出ももらってるし届く便りからも愛情は感じたし。
でも何が一番って言われたら,主人亡くした今は名前やろか。あとは私ら二人にしか分からん時間を共有出来た事。」
「名前かぁ。」
「入江三津になる?」
にっと笑って三津の顔を覗き込む入江の頭を文は拳で殴った。
「それがいけんそっちゃ!何で冗談みたく言うかね?」
ゴツンと音がして入江は頭を抱えて踞った。
入江の腕の中でふと父親がかけてくれたまじないを思い出した。
幼い頃,転んで痛いと泣いていた自分にかけてくれた言葉。
痛いの痛いの飛んでいけ。
これは心にも有効だろうか。今してあげられる事が分からなくて,子供騙しなまじないを心で唱えながらゆっくりと入江の背中を撫でた。
入江にこの痛みを与えているのは紛れもなく自分だと自覚はしている。 http://kiya.blog.jp/archives/24341447.html https://note.com/ayumu6567/n/n260d3e885a3f?sub_rt=share_pb https://community.joomla.org/events/my-events/ru-jiangno-wanno-zhongdefuto-fu-qingakaketekuretamajinaiwo-sii-chushita.html
入江を楽にするのも苦しめるのもこの私なんだ。自分でも酷い女だとしか言いようがない。
しばらく撫でていると徐々に腕が緩んできた。それから入江は三津の手を取り無言で歩き出した。
二人は海へ出て肩を並べて座り,何を言う事もなくずっと前だけを見ていた。
「私達のこの先に正解はあるんか?」
「分かりません……。多分正解なんてないと思います。でも答えはあると思うんです。
その答えも一つだけやなくて何通りもあって,それが正しいのか間違いなのか誰にも分からんから,選んだ答えが正しかったって自分で肯定するしかないんちゃいますかねぇ……。」
「難しいわ。考えるの嫌になって来たから帰ろ。」
三津も苦笑いでそうですねと立ち上がった。それから二人で大きな溜息をついた。
「文ちゃんに問い詰められたら素直に答えるか……。」
「それがいいです……。誤魔化しは効きませんから……。何か答えに繋がるお告げとかくれそう……。」
二人は閻魔のお告げを貰いに帰路を辿った。二人が家に戻ると文がちょうど洗濯物を取り込んでいたからそれを手伝って居間で三人で畳み始めた。
「で?重苦しい空気引っ提げて帰って来てどうしたん?」
「昨日の夜お前に言われた事真剣に考えて三津さんに伝えたそっちゃ。結局二人で悩んでも何も前に進まんかったそ。」
「似た者同士で悩んでもそりゃ何も進展せんわ。二人共何だかんだ言って今の関係がちょうどいいんやろ?」
二人は驚いた顔で頷いた。文はやっぱりなとからから笑った。分かりやすくて助かるとまで言った。
「三津さんは桂様の事許せそう?他の女抱いて孕ませたって言うの帳消しにして営み出来る?」
相変わらず文は鋭い所を突くなと二人は苦笑したがそこも重要な所だ。
「そう言われると許せる気がしいひん……。私根に持つんで。多分喧嘩したり嫌な事あるとすぐ思い出してまいそう……。」
「普通はそうよ。私も今だにこの人から受けた嫌がらせ根に持っとるぐらいやけぇ。」
文はどす黒い笑みで入江を見たが入江はすぐさま視線を外した。
「引きずりながら傍に居って嫌な思いするぐらいならこの際二人とも選ばんって言う手もあるで?その代わり二人には絶対体を許しちゃいけんけど。許したらただの都合のいい女にされてしまうけ。」
「どっちも選ばない……。あぁ悩むぐらいなら一人の方が楽かもですね。」
「やろ?私も主人と結婚して七年やけど主人がこの家におったのたった二年やけぇほぼ一人よ。もうそれに慣れたけぇ一人がいいわ楽で。」
「たった二年……。」
別に驚く事でもない。忙しくあちこち足を運んでる姿を見れば想像はつく。もし桂と夫婦になったとしても自分も文と同じ立場になるんだろう。
だとしたら夫婦である意味は?と思ってしまう。
「夫婦で良かったと思える事って何ですか?」
長く一緒に暮らしてもない,子もいない文にこんな事を聞くのは失礼になるのではと思ったが文はそうねぇと嫌な顔もせず考えた。
「同じ名字をもらえた事やろか。悲しいけどこれだけが私が主人の妻って証やから。
別に良かったのはこれだけやないのよ?思い出ももらってるし届く便りからも愛情は感じたし。
でも何が一番って言われたら,主人亡くした今は名前やろか。あとは私ら二人にしか分からん時間を共有出来た事。」
「名前かぁ。」
「入江三津になる?」
にっと笑って三津の顔を覗き込む入江の頭を文は拳で殴った。
「それがいけんそっちゃ!何で冗談みたく言うかね?」
ゴツンと音がして入江は頭を抱えて踞った。
2024年04月02日
「私達にも優しくて目が合うと微笑んでくださる
「私達にも優しくて目が合うと微笑んでくださるんですが,たまに何を考えていらっしゃるか分からない謎めいた感じがいいと。」
すると文はフサの両肩に手を置いてしっかりと顔を合わせて諭すように言った。
「あれはねとりあえず目を見て微笑めば女は落ちるって思っとるんと,何考えちょるか分からん顔の時は大抵助平な事考えちょるそ騙されちゃいけん。いい?あれはただの変態。」
『酷い言われよう……。』
そう思いながらも三津も入江に暴言を吐き,変態呼ばわりしてるので人の事は言えない。
「入江さんは姉上とどうなりたいのでしょうね?」 https://note.com/ayumu6567/n/n703c85225f70?sub_rt=share_pb https://community.joomla.org/events/my-events/igami-heu-er-renwo-jiao-huni-jiantekara-san-jinha-ru-jiangno-muwo-jiante-xiaotta.html http://kiya.blog.jp/archives/24341394.html
変態なのは分かった。考え方も普通じゃないのならその彼が望むものは何でしょう?とフサは小首を傾げた。
「うーん……つげの櫛を贈りたいとは言われたし家族になろうとか言われるけど本心なのかふざけてるのか見極めが難しくて。」
三津が唸り声をあげている横で文は盛大な溜息をついて額に手を当てた。
「不器用が出ちょるわ。それ本心よ。今まで見て来たけどあの人自分から女口説く事せんそっちゃ。
来るもの拒まず去る者追わずやけ。」
そんな男がとうとう人を好きになる事を覚えたかと文はちょっと嬉しくもあった。やっと自ら人を好きになったのにまともな付き合い方をしてない男が世間で言う普通の恋とやらが出来るはずもない。
加えて相手は一癖も二癖もある男の想い人で一筋縄ではいかない女子。
『みんなで幸せになると言うのは難しいですねぇ兄上。』
文は海原に目を向け,こんな時あの兄ならどんな言葉をくれただろうかと思った。
それともう一つ。
『飛脚に頼んだあの文そろそろ届いたやろか。』
さて,これがどう転ぶかなと考えながら文は口角を上げた。
文の送った便りを高杉は無事に受取り部屋で一人で目を通した。
“ご無沙汰しております。高杉さんに対して時候の挨拶は私の労力の無駄になりますので省略させていただきます。”
「おう……相変わらずやな文の奴。」
高杉はその書き出しににやっと笑った。それから文の女性らしい文字を追って全てを読み終えた時,腹に手を当て大笑いをした。
「これは黙っちょらんな。くれぐれも桂さんによろしくか。」
最後の締めの一文を見返してからそれを手に赤禰と伊藤の所へ向かった。二人にそれを読めと手渡して二人が目を通すその脇でごろんと寝転がった。
「ふっ……相変わらず嫌われてんなお前。」
伊藤は冒頭の文を見て鼻で笑った。それから書かれてある内容に赤禰はおぉと声を漏らし伊藤はえー……と不満げに声を上げた。
「これ今日届いたそ?って事は二人が向こう着いてすぐ書いたんやない?」
赤禰は二人が出立してから今日までの日にちを指折り数えた。
「やろうな。二人から話聞いてすぐやろ。短時間でよう思いつくわ。血は争えんな。」
高杉はふんっと鼻を鳴らして笑った。そしてこれをいつ桂に見せようか思案した。
その夜,三津が眠ってから文は入江の部屋へ行った。
「起きてる?」
外から声をかければ少し不機嫌そうな顔をした入江が襖を開けた。
「起きとるわ。そっちが起きとけ言うたやろが。」
三津には内緒で話があるから起きて待ってろと告げられずっと起きて待っていた。
「また何か仕返しか?」
ムスッとしながら布団の上に胡座をかくと文は布団の脇に正座した。
「入江さんは三津さんどうするつもりなん?本気で嫁にするん?それともただ傍におりたいだけなん?」
「そんなん文ちゃんには関係ない事や。」
痛いところを突いてくる。触れてほしくない部分なだけに入江は文を突っぱねようとしたがそれで引き下がる文でもない目を合わそうとしない入江をまっすぐ見据えて文は口を開いた。
「もしよ?身分揃えられて上からの縁組の許しが出て正式に桂様と夫婦になったらどうするそ?それだけ好きで一緒に居たくて戻って来たのに離れられる?
それとも傍に居るつもり?不義密通なんかになったらどうなるか分かるやろ?」
すると文はフサの両肩に手を置いてしっかりと顔を合わせて諭すように言った。
「あれはねとりあえず目を見て微笑めば女は落ちるって思っとるんと,何考えちょるか分からん顔の時は大抵助平な事考えちょるそ騙されちゃいけん。いい?あれはただの変態。」
『酷い言われよう……。』
そう思いながらも三津も入江に暴言を吐き,変態呼ばわりしてるので人の事は言えない。
「入江さんは姉上とどうなりたいのでしょうね?」 https://note.com/ayumu6567/n/n703c85225f70?sub_rt=share_pb https://community.joomla.org/events/my-events/igami-heu-er-renwo-jiao-huni-jiantekara-san-jinha-ru-jiangno-muwo-jiante-xiaotta.html http://kiya.blog.jp/archives/24341394.html
変態なのは分かった。考え方も普通じゃないのならその彼が望むものは何でしょう?とフサは小首を傾げた。
「うーん……つげの櫛を贈りたいとは言われたし家族になろうとか言われるけど本心なのかふざけてるのか見極めが難しくて。」
三津が唸り声をあげている横で文は盛大な溜息をついて額に手を当てた。
「不器用が出ちょるわ。それ本心よ。今まで見て来たけどあの人自分から女口説く事せんそっちゃ。
来るもの拒まず去る者追わずやけ。」
そんな男がとうとう人を好きになる事を覚えたかと文はちょっと嬉しくもあった。やっと自ら人を好きになったのにまともな付き合い方をしてない男が世間で言う普通の恋とやらが出来るはずもない。
加えて相手は一癖も二癖もある男の想い人で一筋縄ではいかない女子。
『みんなで幸せになると言うのは難しいですねぇ兄上。』
文は海原に目を向け,こんな時あの兄ならどんな言葉をくれただろうかと思った。
それともう一つ。
『飛脚に頼んだあの文そろそろ届いたやろか。』
さて,これがどう転ぶかなと考えながら文は口角を上げた。
文の送った便りを高杉は無事に受取り部屋で一人で目を通した。
“ご無沙汰しております。高杉さんに対して時候の挨拶は私の労力の無駄になりますので省略させていただきます。”
「おう……相変わらずやな文の奴。」
高杉はその書き出しににやっと笑った。それから文の女性らしい文字を追って全てを読み終えた時,腹に手を当て大笑いをした。
「これは黙っちょらんな。くれぐれも桂さんによろしくか。」
最後の締めの一文を見返してからそれを手に赤禰と伊藤の所へ向かった。二人にそれを読めと手渡して二人が目を通すその脇でごろんと寝転がった。
「ふっ……相変わらず嫌われてんなお前。」
伊藤は冒頭の文を見て鼻で笑った。それから書かれてある内容に赤禰はおぉと声を漏らし伊藤はえー……と不満げに声を上げた。
「これ今日届いたそ?って事は二人が向こう着いてすぐ書いたんやない?」
赤禰は二人が出立してから今日までの日にちを指折り数えた。
「やろうな。二人から話聞いてすぐやろ。短時間でよう思いつくわ。血は争えんな。」
高杉はふんっと鼻を鳴らして笑った。そしてこれをいつ桂に見せようか思案した。
その夜,三津が眠ってから文は入江の部屋へ行った。
「起きてる?」
外から声をかければ少し不機嫌そうな顔をした入江が襖を開けた。
「起きとるわ。そっちが起きとけ言うたやろが。」
三津には内緒で話があるから起きて待ってろと告げられずっと起きて待っていた。
「また何か仕返しか?」
ムスッとしながら布団の上に胡座をかくと文は布団の脇に正座した。
「入江さんは三津さんどうするつもりなん?本気で嫁にするん?それともただ傍におりたいだけなん?」
「そんなん文ちゃんには関係ない事や。」
痛いところを突いてくる。触れてほしくない部分なだけに入江は文を突っぱねようとしたがそれで引き下がる文でもない目を合わそうとしない入江をまっすぐ見据えて文は口を開いた。
「もしよ?身分揃えられて上からの縁組の許しが出て正式に桂様と夫婦になったらどうするそ?それだけ好きで一緒に居たくて戻って来たのに離れられる?
それとも傍に居るつもり?不義密通なんかになったらどうなるか分かるやろ?」
2024年03月11日
くすぐったいと腕の中で身を捩らせる姿に気持ちが逸る。
くすぐったいと腕の中で身を捩らせる姿に気持ちが逸る。
でも考えてみれば以前の生活では数ヶ月会えない事なんてざらにあった。あの頃はよく堪えれたなと桂は目を細めた。
その反動で今求め過ぎているのも間違いない。
『少し控えないと嫌われてしまうな。』
多分三津はあの頃の頻度,会えない日が続いてようやく会えた喜びを噛みしめるのがちょうど良かったのかもしれない。
今日を終えたらしばらくは堪えてみるか。そう心に誓って抱き心地のいい体に酔いしれた。https://mathewanderson.livedoor.blog/archives/2313283.html http://mathewanderson.zohosites.com/ https://mathewanderson.livedoor.blog/archives/2313292.html
翌日,三津は桂が職務を一段落させるのを仮自室で待っていた。昨夜は少し体を疲れさすどころじゃないくらいに負担をかけられたので,休んでていいよと許可をもらって体を休めていた。
『アレが激し過ぎたから体動かへんとか言われへんし……。でもそんな事情で仕事が何も出来へんってのもめっちゃ胸が痛い……。』
休んでいいと言われたが床を延べてまで休むのは気が引けて,正座を崩した状態で座り背中を壁に預けて唸っていた。
「三津入るよ。」
お迎えの声に慌てて姿勢を正そうとしたが若干痺れた足と,全身の怠さから前のめりになり四つん這い状態で出迎える羽目になった。
「……今日行くのやめとく?」
その姿を見た桂は苦笑して首を傾げた。
「大丈夫です……。」
真っ赤な顔でのそのそ立ち上がり行きましょうと桂に歩み寄った。
「何かごめんね。」
「いえ……。」
じゃあ行こうかと玄関へ行くとサヤが見送りに待っていてくれた。
「お気をつけて行ってらっしゃいませ。三津さんこれを。」
そう言って包みを手渡した。少し重みのあるそれは何だか覚えがある感覚。
「お供えの品です。」
「えっそれじゃあ……。」
三津はサヤと桂の顔を交互に見た。二人ともただ笑みを浮かべて三津を見ていた。
「それじゃあ行こうか。」
桂の言葉に促されて三津は包みを大事に胸に抱えながらその背中について藩邸を出た。
昨日は楽しみで仕方なかったのに今の三津は緊張しながら歩いていた。
改めて新平に桂を紹介する。何て報告しよう?この前醜態を晒したばかりだしなぁと先日の出来事を思い起こす。
「何だか緊張するよ。」
「えっ?」
桂の吐露した心境がまさかの同じ心境で三津は思わず口を半開きにして隣の顔を見上げた。それに気付いた桂はふっと笑みをこぼした。「そんなに意外?口半開きだよ。」
そう言うところは幼いままだねと笑った。三津は慌てて口をきゅっと閉じて顔を正面に戻して真っ直ぐ前を見た。
その行動もまた幼いなと思ったがそれは黙っておいた。
「私だって緊張ぐらいするよ。」
「実は私も緊張してまして……。」
「何で?」
「だって新ちゃんに好きな人紹介するんですよ?」
何とも不思議な感覚だ。まぁ初めて桂と二人で甘味屋に戻った日に比べれば大したものじゃない。
あの時はもう頭が真っ白でとにかく恥ずかしかったとしか覚えてない。
『でも来てくれたのは嬉しかった。』
ちょっと前の甘酸っぱいような思い出に少し口元がにやけた。
滅多に会えなかったあの時はそんなに昔の事じゃないのに,今の状態に慣れてしまい隣に居られる喜びが薄れてしまっていたなと気付いた。
こうしてたまにもどかしい関係だった時を思い出すのはいいかも知れない。その時の新鮮な気持ちが蘇る。三津はそうしようそうしようと一人頷いた。
ゆっくりと歩調を合わせて歩いてくれてる桂に目を向けた。ひらひらと風に舞う花びらを掴もうと手を伸ばして遊んでいる。
相変わらず容姿とは違ってお茶目な人だと目を細めた。
「三津もやってごらんよ。」
「いえ,私は……。」
大事なお供物を持ってるし桂でも難しいようなのにこの私に出来るはずがない。すると抱えていた包みを取り上げられて満面の笑みで視界をいっぱいにされた。
口を尖らせながらも宙を漂う花びらに目星をつける。
「えい!」
掛け声と共にばちんっと豪快な音を鳴らした。蚊を叩き潰すが如く両手で挟みにかかった。
「あっははは!虫じゃないんだから。」
大声で笑われ恥ずかしい事この上ない。おまけにあれだけ勢い良く挟んだのに何も掴めてない。
「好きなだけ笑ってください。」
三津は不貞腐れてそっぽを向いた。
「ごめんね。可愛いからつい。」
三津は照れ隠しでつんとしてみせたが本当は桂が声を上げて笑ってくれたのが嬉しかった。久しぶりに無邪気に笑ってるのを見た気がする。
「いいですよ?藩邸のみんなに喋ってみんなで笑っても。」
「そんな事しないよ。だって私の前だけで見せてくれる姿だよ?わざわざ他人に教えたくないね。」
桂は独占欲が強くてごめんねとからから笑った。
でも考えてみれば以前の生活では数ヶ月会えない事なんてざらにあった。あの頃はよく堪えれたなと桂は目を細めた。
その反動で今求め過ぎているのも間違いない。
『少し控えないと嫌われてしまうな。』
多分三津はあの頃の頻度,会えない日が続いてようやく会えた喜びを噛みしめるのがちょうど良かったのかもしれない。
今日を終えたらしばらくは堪えてみるか。そう心に誓って抱き心地のいい体に酔いしれた。https://mathewanderson.livedoor.blog/archives/2313283.html http://mathewanderson.zohosites.com/ https://mathewanderson.livedoor.blog/archives/2313292.html
翌日,三津は桂が職務を一段落させるのを仮自室で待っていた。昨夜は少し体を疲れさすどころじゃないくらいに負担をかけられたので,休んでていいよと許可をもらって体を休めていた。
『アレが激し過ぎたから体動かへんとか言われへんし……。でもそんな事情で仕事が何も出来へんってのもめっちゃ胸が痛い……。』
休んでいいと言われたが床を延べてまで休むのは気が引けて,正座を崩した状態で座り背中を壁に預けて唸っていた。
「三津入るよ。」
お迎えの声に慌てて姿勢を正そうとしたが若干痺れた足と,全身の怠さから前のめりになり四つん這い状態で出迎える羽目になった。
「……今日行くのやめとく?」
その姿を見た桂は苦笑して首を傾げた。
「大丈夫です……。」
真っ赤な顔でのそのそ立ち上がり行きましょうと桂に歩み寄った。
「何かごめんね。」
「いえ……。」
じゃあ行こうかと玄関へ行くとサヤが見送りに待っていてくれた。
「お気をつけて行ってらっしゃいませ。三津さんこれを。」
そう言って包みを手渡した。少し重みのあるそれは何だか覚えがある感覚。
「お供えの品です。」
「えっそれじゃあ……。」
三津はサヤと桂の顔を交互に見た。二人ともただ笑みを浮かべて三津を見ていた。
「それじゃあ行こうか。」
桂の言葉に促されて三津は包みを大事に胸に抱えながらその背中について藩邸を出た。
昨日は楽しみで仕方なかったのに今の三津は緊張しながら歩いていた。
改めて新平に桂を紹介する。何て報告しよう?この前醜態を晒したばかりだしなぁと先日の出来事を思い起こす。
「何だか緊張するよ。」
「えっ?」
桂の吐露した心境がまさかの同じ心境で三津は思わず口を半開きにして隣の顔を見上げた。それに気付いた桂はふっと笑みをこぼした。「そんなに意外?口半開きだよ。」
そう言うところは幼いままだねと笑った。三津は慌てて口をきゅっと閉じて顔を正面に戻して真っ直ぐ前を見た。
その行動もまた幼いなと思ったがそれは黙っておいた。
「私だって緊張ぐらいするよ。」
「実は私も緊張してまして……。」
「何で?」
「だって新ちゃんに好きな人紹介するんですよ?」
何とも不思議な感覚だ。まぁ初めて桂と二人で甘味屋に戻った日に比べれば大したものじゃない。
あの時はもう頭が真っ白でとにかく恥ずかしかったとしか覚えてない。
『でも来てくれたのは嬉しかった。』
ちょっと前の甘酸っぱいような思い出に少し口元がにやけた。
滅多に会えなかったあの時はそんなに昔の事じゃないのに,今の状態に慣れてしまい隣に居られる喜びが薄れてしまっていたなと気付いた。
こうしてたまにもどかしい関係だった時を思い出すのはいいかも知れない。その時の新鮮な気持ちが蘇る。三津はそうしようそうしようと一人頷いた。
ゆっくりと歩調を合わせて歩いてくれてる桂に目を向けた。ひらひらと風に舞う花びらを掴もうと手を伸ばして遊んでいる。
相変わらず容姿とは違ってお茶目な人だと目を細めた。
「三津もやってごらんよ。」
「いえ,私は……。」
大事なお供物を持ってるし桂でも難しいようなのにこの私に出来るはずがない。すると抱えていた包みを取り上げられて満面の笑みで視界をいっぱいにされた。
口を尖らせながらも宙を漂う花びらに目星をつける。
「えい!」
掛け声と共にばちんっと豪快な音を鳴らした。蚊を叩き潰すが如く両手で挟みにかかった。
「あっははは!虫じゃないんだから。」
大声で笑われ恥ずかしい事この上ない。おまけにあれだけ勢い良く挟んだのに何も掴めてない。
「好きなだけ笑ってください。」
三津は不貞腐れてそっぽを向いた。
「ごめんね。可愛いからつい。」
三津は照れ隠しでつんとしてみせたが本当は桂が声を上げて笑ってくれたのが嬉しかった。久しぶりに無邪気に笑ってるのを見た気がする。
「いいですよ?藩邸のみんなに喋ってみんなで笑っても。」
「そんな事しないよ。だって私の前だけで見せてくれる姿だよ?わざわざ他人に教えたくないね。」
桂は独占欲が強くてごめんねとからから笑った。
2024年03月11日
ただ純粋に三津と居たいだけなのに
ただ純粋に三津と居たいだけなのに。楽しく話がしたいのに目の前の三津はどこか怯えている。
『俺への礼を選んだ事で後々桂さんに怒られるのをすでに想像してんだな。』
「今だけ俺の小姓だと思ってればいい。」
すると三津の表情が明るくなった。吉田からすればそんなに下働きの方がいいのか?と複雑な心境になる。
「いきなりこんな事して三津の時間をもらったけど無駄にさせたくないから今は自分の仕事しておいで。夜に寝床整えに戻って来てくれたらそれでいいから。」
「えっそれでいいの?」 https://debsyking786.livedoor.blog/archives/4458276.html http://johnsmith786.zohosites.com/ https://carinacyril.livedoor.blog/archives/2318238.html
どんな無理難題を突きつけられるかヒヤヒヤしてただけに拍子抜け。ぽかんと間抜け面を晒してしまった。
「いいよ。夜ちょっとだけお願いしたい事がある。それも別に難しい内容じゃないしやましい事もないから。」
それならと三津は笑みを浮かべて頷いた。
「今日の事あまり追及されたくないんで仮自室に隠れてます。何かあれば呼んでください。」
三津は誰にも捕まらないように外の様子を窺ってからそそくさと移動した。
『あ,動いた。』
こそこそ動く三津を待っていたのは入江だった。音を立てないように素早く廊下を走る後ろを気配を消して追いかけた。
三津が障子を開いた瞬間に背中を押して部屋に押し込みそのまま自分も流れ込んで障子を閉めた。
「おっ脅かさないで下さいよ!」
「ごめんね。今朝私が言った事で何か悩んでたら申し訳ないなと思って話を聞きたかったんで。」
三津はひとまず立ち話もなんだから座ってもらおうと座布団を入江の前に差し出した。そして自分の分も用意して向かい合って正座した。
「その件は悩むほどではないですけど……。何でアヤメさんの気持ち知らない振りしてるんですか?」
「だって直接好きだと言われてませんしその気持ちに応える気もないですし。なのにわざわざ断るのも変でしょ?そんな事したらアヤメさん絶対仕事に支障をきたすの目に見えてるし。」
三津にもそれは容易に想像出来た。そうなれば間違いなく被害を被るのはサヤや藩邸のみんなだろう。
もしかしたら女中を辞めてしまうかもしれない。
「彼女にとっても今の距離感の方がいいと思いますよ。」
「そうかもしれませんけど……。」
都合のいい男になりたいと言われた私の事はお構いなしかと首を擡げた。三津からすればそこもはっきりすっきりさせておきたい。
「じゃあ何で私には都合のいい男になりたいなんて言ったんですか。私が困るとか思わなかったんですか。」
「え?だって言いたかったんだもん。」
恨めしそうに睨む三津に対して入江は腹立たしいぐらい綺麗な笑顔を作った。
『言いたかったんだもん?』
三津の片眉がピクリと動いた。そんな可愛い言い方で誤魔化す気か。膝の上で握った拳に力が入る。
こっちは悩みの種を増やされていい迷惑なんだ。言いたい事は山ほどあるぞと唇を尖らせた。
「そりゃ私だって立場がある。だからささやかに陰ながら手を差し伸べられたらと思ってましたが貴女の魔性にやられましてね。」
「嘘はいいんで本音で話してください。」
その笑顔は胡散臭い。三津の勘がそう訴えかける。騙されまいと意気込んで身構えた。
「んー本当はちょっと掻き乱して稔麿と桂さんをからかいたかったんですけど,近くで貴女を見てるうちにだんだん本気になっちゃったんです。信じてくれますか?」
可愛く小首を傾げてみせる。口角はきゅっと上がって悪戯っぽく笑っているが目の奥は真剣そのもの。
「それがホンマやとしても私は……。」
「うん,私の元へ来ないのは百も承知です。でも私はそうであっても貴女にこの気持ちを知ってほしいと思ったんです。欲が出ました。」
そう言う入江は笑顔を崩さずにいるが,その表情に翳りが見えた。そんな僅かな違和感には気付いてしまう自分がちょっと嫌になる。
結局自分から面倒事に足を突っ込んでしまうから。
「でも私の気持ちに応えられないのなら知らないふりをしたらいい。何も知らない気付いてない。そんな顔をして過ごしてたらいい。」
胸が締め上げられたような感覚を味わった。それは今まさに入江がアヤメに対してしている事。
わざわざこちらにも同じ感覚を味わわせるなんて。
三津の顔が歪んだのを見て入江は悲しそうな目で笑い続ける。
「私はそんな対応されても平気です。私には平然と己の欲を押し付ける神経の太さがありますがアヤメさんにはそれがない。
だったら何も知らない,そんな気持ちなんて存在しないようにしてあげた方が彼女の為です。」
だから花見の時は余計な真似はせず,彼女に期待を抱かすような事もせず今の距離感を保たせてくれと言い残して部屋を出た。
『俺への礼を選んだ事で後々桂さんに怒られるのをすでに想像してんだな。』
「今だけ俺の小姓だと思ってればいい。」
すると三津の表情が明るくなった。吉田からすればそんなに下働きの方がいいのか?と複雑な心境になる。
「いきなりこんな事して三津の時間をもらったけど無駄にさせたくないから今は自分の仕事しておいで。夜に寝床整えに戻って来てくれたらそれでいいから。」
「えっそれでいいの?」 https://debsyking786.livedoor.blog/archives/4458276.html http://johnsmith786.zohosites.com/ https://carinacyril.livedoor.blog/archives/2318238.html
どんな無理難題を突きつけられるかヒヤヒヤしてただけに拍子抜け。ぽかんと間抜け面を晒してしまった。
「いいよ。夜ちょっとだけお願いしたい事がある。それも別に難しい内容じゃないしやましい事もないから。」
それならと三津は笑みを浮かべて頷いた。
「今日の事あまり追及されたくないんで仮自室に隠れてます。何かあれば呼んでください。」
三津は誰にも捕まらないように外の様子を窺ってからそそくさと移動した。
『あ,動いた。』
こそこそ動く三津を待っていたのは入江だった。音を立てないように素早く廊下を走る後ろを気配を消して追いかけた。
三津が障子を開いた瞬間に背中を押して部屋に押し込みそのまま自分も流れ込んで障子を閉めた。
「おっ脅かさないで下さいよ!」
「ごめんね。今朝私が言った事で何か悩んでたら申し訳ないなと思って話を聞きたかったんで。」
三津はひとまず立ち話もなんだから座ってもらおうと座布団を入江の前に差し出した。そして自分の分も用意して向かい合って正座した。
「その件は悩むほどではないですけど……。何でアヤメさんの気持ち知らない振りしてるんですか?」
「だって直接好きだと言われてませんしその気持ちに応える気もないですし。なのにわざわざ断るのも変でしょ?そんな事したらアヤメさん絶対仕事に支障をきたすの目に見えてるし。」
三津にもそれは容易に想像出来た。そうなれば間違いなく被害を被るのはサヤや藩邸のみんなだろう。
もしかしたら女中を辞めてしまうかもしれない。
「彼女にとっても今の距離感の方がいいと思いますよ。」
「そうかもしれませんけど……。」
都合のいい男になりたいと言われた私の事はお構いなしかと首を擡げた。三津からすればそこもはっきりすっきりさせておきたい。
「じゃあ何で私には都合のいい男になりたいなんて言ったんですか。私が困るとか思わなかったんですか。」
「え?だって言いたかったんだもん。」
恨めしそうに睨む三津に対して入江は腹立たしいぐらい綺麗な笑顔を作った。
『言いたかったんだもん?』
三津の片眉がピクリと動いた。そんな可愛い言い方で誤魔化す気か。膝の上で握った拳に力が入る。
こっちは悩みの種を増やされていい迷惑なんだ。言いたい事は山ほどあるぞと唇を尖らせた。
「そりゃ私だって立場がある。だからささやかに陰ながら手を差し伸べられたらと思ってましたが貴女の魔性にやられましてね。」
「嘘はいいんで本音で話してください。」
その笑顔は胡散臭い。三津の勘がそう訴えかける。騙されまいと意気込んで身構えた。
「んー本当はちょっと掻き乱して稔麿と桂さんをからかいたかったんですけど,近くで貴女を見てるうちにだんだん本気になっちゃったんです。信じてくれますか?」
可愛く小首を傾げてみせる。口角はきゅっと上がって悪戯っぽく笑っているが目の奥は真剣そのもの。
「それがホンマやとしても私は……。」
「うん,私の元へ来ないのは百も承知です。でも私はそうであっても貴女にこの気持ちを知ってほしいと思ったんです。欲が出ました。」
そう言う入江は笑顔を崩さずにいるが,その表情に翳りが見えた。そんな僅かな違和感には気付いてしまう自分がちょっと嫌になる。
結局自分から面倒事に足を突っ込んでしまうから。
「でも私の気持ちに応えられないのなら知らないふりをしたらいい。何も知らない気付いてない。そんな顔をして過ごしてたらいい。」
胸が締め上げられたような感覚を味わった。それは今まさに入江がアヤメに対してしている事。
わざわざこちらにも同じ感覚を味わわせるなんて。
三津の顔が歪んだのを見て入江は悲しそうな目で笑い続ける。
「私はそんな対応されても平気です。私には平然と己の欲を押し付ける神経の太さがありますがアヤメさんにはそれがない。
だったら何も知らない,そんな気持ちなんて存在しないようにしてあげた方が彼女の為です。」
だから花見の時は余計な真似はせず,彼女に期待を抱かすような事もせず今の距離感を保たせてくれと言い残して部屋を出た。
2024年03月11日
『小五郎さんまさかサヤにちょっかい出
『小五郎さんまさかサヤにちょっかい出した事あるんちゃう?だからサヤさん色々気付くし分かるんやない?』
変に鼓動が早くなり脂汗が滲んでくる。
「あ,言っときますけど同じような経験はないですからね?最近の桂様の行動と三津さんの表情で何となく分かるだけですからね?」
『心内まで読まれた!』
その笑顔の奥で何が見えてるというのか。
「サヤさんここで働く為に何か特別な訓練受けました?」
私だって側で見てるけど全く分かりませんとアヤメが真顔でサヤを見つめた。
「別に何も受けてへんわ。こう言う仕事やから周りに気を配ってたら自然と分かるようになっただけ。
桂様はここ最近……三津さんに出会ってからやろか?よく感情が顔に出るようになりはったからより分かり易くなったわ。」
サヤは弱味を握ったみたいで楽しいのと笑みを深めるが二人はその笑顔に少しだけ恐怖を感じて身震いした。
「それで何があったんです?」 https://note.com/carinacyril786/n/n676f86276111?sub_rt=share_pb https://community.joomla.org/events/my-events/san-jinsan-youshiina-a.html https://carinacyril786.livedoor.blog/archives/2262826.html
サヤの笑みがこんなにどす黒く見えたことがあっただろうか。
まさかこの場でまたも辱めを受ける羽目になるとは。
「……私はいい玩具のようで。」
思い出すだけでも顔から火が出る。ここは当たり障りなく言葉を濁した。
桂が膝に乗っけて朝餉をあーんしようとしたなんて口が裂けても言えない。言いたくない。
「いいなぁ。惚気ですね。三津さんそれは惚気です。」
アヤメは私なんてと溜め息をついた。三津はぎくりと肩を揺らした。
『言われへん……。入江さんが私の都合のいい人になりたいって言ってるなんて……。』
またもや脂汗が滲んでくる。
「入江さんは飄々としてはるから私にもよく分かりませんね。」
ぎこちない笑みで誤魔化そうとした。サヤの笑顔は怖くて到底見れない。絶対に見透かされるに違いない。
「確かに入江さんだけ読めない所ありますねぇ。」
サヤがうーんと考える仕草をしたから二人はえっと声を上げた。
「サヤさんでも読めないって私らには理解出来ないやないですか。アヤメさんとんでもない人好きになりましたね。」
「そのお言葉三津さんにそっくりそのままお返しします!桂様もとんでもない人ですからね!」
それには何の反論も出来ずにアヤメに向かってげっそりした笑みを投げかけた。
そんな二人を見ていたサヤが何かを思いついた顔をした。「アヤメ折角やから入江さんを花見に誘ってみたら?」
「あっそれいい考えですね。二人でお花見しはったらいい。」
三津もぽんと手を打って名案だと乗っかった。もしこれで入江がアヤメに靡いてくれるなら悩みの種も消えてくれて一石二鳥だ。
しかしアヤメは無理無理と涙目で首を横に振った。
「粗相して嫌われるくらいなら今のままの方が私はいいです。」
「別に想いを告げろなんて言うてへんやん。二人で出掛けたら?ってだけの話やで?」
サヤに言われてアヤメは目を泳がせた。
「か……会話がもたへんから無理です……。見てるだけでいいです……。」
顔を真っ赤にしながらそう言うと気まずそうに俯いた。
「じゃあみんなで行きます?お花見。」
三津の提案にサヤの唇が弧を描く。
「そうですね。それでそれとなく二人が近くになるようにしたら。」
「うんうん,徐々に慣れていけばいいと思います。」
「では三津さん乃美様と桂様にお花見したいとお願いしてみてもらえます?三津さんにお願いされたら二人は駄目とは言いませんからね。」
いつもお淑やかに見えるサヤの笑みが今日は何だか悪い女に見えるなと三津は思う。
「久坂さん達には私からお時間いただけないか聞いてみますね。いいやろ?アヤメ。」
天女のような笑みで圧をかけた。元々アヤメはサヤには逆らえない。標的にされた子兎はぷるぷる震えながら頷くしかなかった。
「……と言う訳でアヤメの為にみんなでお花見がしたいのでお時間いただけないかと。」
サヤは久坂と吉田だけをこっそり呼び出して詳細を話した。
「なるほどね。三津からお花見するって言葉を引き出しただけでもサヤさんは凄いよ。
九一は面倒くさがるからここはサヤさんとアヤメさんがお花見の話を取り付けた事にしておこう。」
吉田は何の問題もないと了承した。
「まぁアヤメさんも一緒に居るだけでいいって言ってるんだし九一も嫌がらんだろ。それで桂さんには?」
久坂の問にサヤは極上の笑顔を見せた。
「今三津さんがおねだりに行ってます。」
それなら絶対に却下されないなと二人は思った。
三津にお花見しようと言わせ,それを遂行する為の手の回し方,サヤの抜かりなさにつくづく敵に回したくないなぁとも思った。
変に鼓動が早くなり脂汗が滲んでくる。
「あ,言っときますけど同じような経験はないですからね?最近の桂様の行動と三津さんの表情で何となく分かるだけですからね?」
『心内まで読まれた!』
その笑顔の奥で何が見えてるというのか。
「サヤさんここで働く為に何か特別な訓練受けました?」
私だって側で見てるけど全く分かりませんとアヤメが真顔でサヤを見つめた。
「別に何も受けてへんわ。こう言う仕事やから周りに気を配ってたら自然と分かるようになっただけ。
桂様はここ最近……三津さんに出会ってからやろか?よく感情が顔に出るようになりはったからより分かり易くなったわ。」
サヤは弱味を握ったみたいで楽しいのと笑みを深めるが二人はその笑顔に少しだけ恐怖を感じて身震いした。
「それで何があったんです?」 https://note.com/carinacyril786/n/n676f86276111?sub_rt=share_pb https://community.joomla.org/events/my-events/san-jinsan-youshiina-a.html https://carinacyril786.livedoor.blog/archives/2262826.html
サヤの笑みがこんなにどす黒く見えたことがあっただろうか。
まさかこの場でまたも辱めを受ける羽目になるとは。
「……私はいい玩具のようで。」
思い出すだけでも顔から火が出る。ここは当たり障りなく言葉を濁した。
桂が膝に乗っけて朝餉をあーんしようとしたなんて口が裂けても言えない。言いたくない。
「いいなぁ。惚気ですね。三津さんそれは惚気です。」
アヤメは私なんてと溜め息をついた。三津はぎくりと肩を揺らした。
『言われへん……。入江さんが私の都合のいい人になりたいって言ってるなんて……。』
またもや脂汗が滲んでくる。
「入江さんは飄々としてはるから私にもよく分かりませんね。」
ぎこちない笑みで誤魔化そうとした。サヤの笑顔は怖くて到底見れない。絶対に見透かされるに違いない。
「確かに入江さんだけ読めない所ありますねぇ。」
サヤがうーんと考える仕草をしたから二人はえっと声を上げた。
「サヤさんでも読めないって私らには理解出来ないやないですか。アヤメさんとんでもない人好きになりましたね。」
「そのお言葉三津さんにそっくりそのままお返しします!桂様もとんでもない人ですからね!」
それには何の反論も出来ずにアヤメに向かってげっそりした笑みを投げかけた。
そんな二人を見ていたサヤが何かを思いついた顔をした。「アヤメ折角やから入江さんを花見に誘ってみたら?」
「あっそれいい考えですね。二人でお花見しはったらいい。」
三津もぽんと手を打って名案だと乗っかった。もしこれで入江がアヤメに靡いてくれるなら悩みの種も消えてくれて一石二鳥だ。
しかしアヤメは無理無理と涙目で首を横に振った。
「粗相して嫌われるくらいなら今のままの方が私はいいです。」
「別に想いを告げろなんて言うてへんやん。二人で出掛けたら?ってだけの話やで?」
サヤに言われてアヤメは目を泳がせた。
「か……会話がもたへんから無理です……。見てるだけでいいです……。」
顔を真っ赤にしながらそう言うと気まずそうに俯いた。
「じゃあみんなで行きます?お花見。」
三津の提案にサヤの唇が弧を描く。
「そうですね。それでそれとなく二人が近くになるようにしたら。」
「うんうん,徐々に慣れていけばいいと思います。」
「では三津さん乃美様と桂様にお花見したいとお願いしてみてもらえます?三津さんにお願いされたら二人は駄目とは言いませんからね。」
いつもお淑やかに見えるサヤの笑みが今日は何だか悪い女に見えるなと三津は思う。
「久坂さん達には私からお時間いただけないか聞いてみますね。いいやろ?アヤメ。」
天女のような笑みで圧をかけた。元々アヤメはサヤには逆らえない。標的にされた子兎はぷるぷる震えながら頷くしかなかった。
「……と言う訳でアヤメの為にみんなでお花見がしたいのでお時間いただけないかと。」
サヤは久坂と吉田だけをこっそり呼び出して詳細を話した。
「なるほどね。三津からお花見するって言葉を引き出しただけでもサヤさんは凄いよ。
九一は面倒くさがるからここはサヤさんとアヤメさんがお花見の話を取り付けた事にしておこう。」
吉田は何の問題もないと了承した。
「まぁアヤメさんも一緒に居るだけでいいって言ってるんだし九一も嫌がらんだろ。それで桂さんには?」
久坂の問にサヤは極上の笑顔を見せた。
「今三津さんがおねだりに行ってます。」
それなら絶対に却下されないなと二人は思った。
三津にお花見しようと言わせ,それを遂行する為の手の回し方,サヤの抜かりなさにつくづく敵に回したくないなぁとも思った。
2024年03月04日
後片付けをして湯浴みもさせてもらい自
後片付けをして湯浴みもさせてもらい自室で布団を延べている三津の元に入江がやって来た。
「ホンマに夜通し話聞こうとしてます?」
「まさか!でも夫婦ごっこって何してたかは聞きたいですね。」 https://ypxo2dzizobm.blog.fc2.com/blog-entry-83.html https://william-l.cocolog-nifty.com/blog/2024/03/post-546c97.html https://besidethepoint.mystrikingly.com/blog/35163d5dcd3
部屋の隅に座り子供のような笑顔を向けた。
「あれは……斎藤さんの用事に付き合うのに奥さんのふりして欲しいって話で斎藤さんの散歩に付き合って旦那様って呼んでるだけでしたね。」
「何だつまんない。もっと深い事してるかと思った。」
「深い事って何ですか。」
敷き終えた布団の上に正座して入江と向かい合った。
「え?夫婦になったら子づく……。」
「あー!!」
三津は顔を赤く染め両耳を塞いで絶叫し,入江の言葉を遮った。
「無いですよ!ごっこって言ったやないですか!
男の人は頭の中そればっかりですか。」
「の……男も居るでしょうねぇ。島原で遊んでばっかの。」
そう言えば居たなと三津は原田や永倉を思い出して笑った。
「昨日の座敷で幾松さんに何か言われたりしたんですか?嫌な事。」
「いいえ?幾松さんはお仕事されてただけですよ。
ただ居心地の悪い空間やったんです。
こんな風にお酌してもらって白粉や紅つけて帰って来るんやなって目の当たりにして。
見たくなかったし居たくもなくて。」
寂しかった気持ちが這い上がってきた。胸が痛い。
「でも仕事の内やし男の人はそんなもんですよね。だから帰って来てくれるだけで喜ばな駄目ですよね。」
ははって乾いた笑いを漏らしたら,体が大きく前に引かれた。ビックリして見開いた目には入江の着物の色だけが認識できた。
「入江さん?」
「桂さんが羨ましいですよ。こんなに健気に想われて。
ちょっと妬きます。」
「あの?」
急にどうしたと問いかけてもただ無言でしばらく抱きすくめられた。
それから少ししてまた言葉が降ってきた。
「斎藤一に甘えたみたいに,縋ってもいいんですよ。貴女には稔麿も私も玄瑞も居ますからね。」
そして身を剥がすと三津のおでこに口付けた。
「悪い夢見ませんように。」
そう言って悪戯っぽく笑っておやすみなさいと部屋を出た。
「……甘える所は沢山あるんで油断しちゃ駄目ですよ?桂さん。」
部屋の外で立ち尽くす桂にも笑みを向けて入江は自室へ引き上げた。
「参ったね……。」
周りは敵だらけかと笑うしか無かった。「そろそろ家に帰ろうか。」
藩邸で過ごすようになって数日経ったある日,桂は三津に切り出した。
「最近は壬生狼の動きも落ち着いてる。一旦家に戻ろうか。」
「そうですね,私も家の様子が気になってたんで!」
ついでに昼も二人で食べようと昼前に藩邸を出る事にした。
「三津さん外に連れ出すの?」
「帰るんだってさ。まだ早過ぎると思うけど。」
門を出る二人の背中を遠巻きに見つめる入江と吉田。
「桂さんがもう限界なんだろ。大目に見てやれよ。
あの件以来三津さんに触るのも我慢してるのに花街にも行かないでずっと傍に居たんだ。
そろそろ二人になりたいだろうよ。」
男ならその辛さ分かるだろと久坂に宥められる。
「あの女好きの桂さんはどこに行っちゃったんだろね。」
吉田はふっと笑みを溢してどう邪魔をしてやろうかと画策した。
久しぶりに道というものを歩く。
嬉しさも一入だが誰かが後ろから自分達を抜き去る度に三津の肩が跳ねる。
桂は少し後ろを歩いてる三津にちらりと目をやり,それから小さな手を握った。
無言で握られたその手を三津は強く握り返して喜びを表した。
久しぶりの家に着いて三津がまず気になったのは,
「あーやっぱり埃。ちょっと空けてただけやと思ってましたけど今日はお掃除ですね。」
家の汚れと篭った空気。戸を開け放って換気をした。
「家でも女中みたいな事を。」
「家の事は女の仕事ですよ。少し片付けてご飯作りますね。」
前掛けをつけて手際よく襷掛けをしようとした所を後ろから抱きしめられて阻まれた。
やはり体は少し震える。
「怖い?」
「いえ……久しぶり過ぎて緊張します……。」
「ホンマに夜通し話聞こうとしてます?」
「まさか!でも夫婦ごっこって何してたかは聞きたいですね。」 https://ypxo2dzizobm.blog.fc2.com/blog-entry-83.html https://william-l.cocolog-nifty.com/blog/2024/03/post-546c97.html https://besidethepoint.mystrikingly.com/blog/35163d5dcd3
部屋の隅に座り子供のような笑顔を向けた。
「あれは……斎藤さんの用事に付き合うのに奥さんのふりして欲しいって話で斎藤さんの散歩に付き合って旦那様って呼んでるだけでしたね。」
「何だつまんない。もっと深い事してるかと思った。」
「深い事って何ですか。」
敷き終えた布団の上に正座して入江と向かい合った。
「え?夫婦になったら子づく……。」
「あー!!」
三津は顔を赤く染め両耳を塞いで絶叫し,入江の言葉を遮った。
「無いですよ!ごっこって言ったやないですか!
男の人は頭の中そればっかりですか。」
「の……男も居るでしょうねぇ。島原で遊んでばっかの。」
そう言えば居たなと三津は原田や永倉を思い出して笑った。
「昨日の座敷で幾松さんに何か言われたりしたんですか?嫌な事。」
「いいえ?幾松さんはお仕事されてただけですよ。
ただ居心地の悪い空間やったんです。
こんな風にお酌してもらって白粉や紅つけて帰って来るんやなって目の当たりにして。
見たくなかったし居たくもなくて。」
寂しかった気持ちが這い上がってきた。胸が痛い。
「でも仕事の内やし男の人はそんなもんですよね。だから帰って来てくれるだけで喜ばな駄目ですよね。」
ははって乾いた笑いを漏らしたら,体が大きく前に引かれた。ビックリして見開いた目には入江の着物の色だけが認識できた。
「入江さん?」
「桂さんが羨ましいですよ。こんなに健気に想われて。
ちょっと妬きます。」
「あの?」
急にどうしたと問いかけてもただ無言でしばらく抱きすくめられた。
それから少ししてまた言葉が降ってきた。
「斎藤一に甘えたみたいに,縋ってもいいんですよ。貴女には稔麿も私も玄瑞も居ますからね。」
そして身を剥がすと三津のおでこに口付けた。
「悪い夢見ませんように。」
そう言って悪戯っぽく笑っておやすみなさいと部屋を出た。
「……甘える所は沢山あるんで油断しちゃ駄目ですよ?桂さん。」
部屋の外で立ち尽くす桂にも笑みを向けて入江は自室へ引き上げた。
「参ったね……。」
周りは敵だらけかと笑うしか無かった。「そろそろ家に帰ろうか。」
藩邸で過ごすようになって数日経ったある日,桂は三津に切り出した。
「最近は壬生狼の動きも落ち着いてる。一旦家に戻ろうか。」
「そうですね,私も家の様子が気になってたんで!」
ついでに昼も二人で食べようと昼前に藩邸を出る事にした。
「三津さん外に連れ出すの?」
「帰るんだってさ。まだ早過ぎると思うけど。」
門を出る二人の背中を遠巻きに見つめる入江と吉田。
「桂さんがもう限界なんだろ。大目に見てやれよ。
あの件以来三津さんに触るのも我慢してるのに花街にも行かないでずっと傍に居たんだ。
そろそろ二人になりたいだろうよ。」
男ならその辛さ分かるだろと久坂に宥められる。
「あの女好きの桂さんはどこに行っちゃったんだろね。」
吉田はふっと笑みを溢してどう邪魔をしてやろうかと画策した。
久しぶりに道というものを歩く。
嬉しさも一入だが誰かが後ろから自分達を抜き去る度に三津の肩が跳ねる。
桂は少し後ろを歩いてる三津にちらりと目をやり,それから小さな手を握った。
無言で握られたその手を三津は強く握り返して喜びを表した。
久しぶりの家に着いて三津がまず気になったのは,
「あーやっぱり埃。ちょっと空けてただけやと思ってましたけど今日はお掃除ですね。」
家の汚れと篭った空気。戸を開け放って換気をした。
「家でも女中みたいな事を。」
「家の事は女の仕事ですよ。少し片付けてご飯作りますね。」
前掛けをつけて手際よく襷掛けをしようとした所を後ろから抱きしめられて阻まれた。
やはり体は少し震える。
「怖い?」
「いえ……久しぶり過ぎて緊張します……。」
2024年03月04日
その言葉に幾松は吉田を睨みつけた。
その言葉に幾松は吉田を睨みつけた。
「昨夜,三津は土方に襲われたよ。」
「……え?」
「土方に凌辱されて逃げ帰って来た。ボロボロだったよ。
首筋や胸元に何度も吸われた痣があってさ,声枯らして泣いてさ,それでもまだまだ泣き散らしてさ。痛々しいんだ。」
途中で慌ただしく帰ってしまった理由を知り幾松の手が小刻みに震え出した。心臓が嫌な脈の打ち方をする。
「ここに来る途中どこで襲われたのか探したんだ。http://jennifer92.livedoor.blog/archives/35181917.html https://note.com/ayumu6567/n/nfdc01eb4bcfd?sub_rt=share_pb https://community.joomla.org/events/my-events/dokohe-lianretekarerundato-zhan-kong-shen-goue.html そしたらね河原に三津の草履が落ちてた。腹立たしいよ,あんな所で三津に恐怖と不快感を与えたなんてね。」
吉田の殺意に満ちた目に幾松の全身から血の気が引いた。「そう言う訳だから,もし桂さんが幾松さんの前に姿を見せないとしたらそれが原因。
今は三津の傷を癒やすのに必死だから。」
言いたいのはそれだけだと吉田は幾松を残して部屋を出た。
三津の物と思われる泥だらけの草履を片手で持ち藩邸へと戻る道を歩く。
何故河原だったのか。吉田は容易に考えがついた。
『何かあると川へ行く癖は何とかした方が良さそうだね。』
きっと嫌な気持ちを水に流してから帰ろうとしたんだろう。三津はいつもそうしていた。嫌な事は水に流すのと言っていたのを思い出す。
「嫌な記憶も……流れてくれたらいいのに。」
三津はどうしてるだろうか。もし泣いてるのであれば抱きしめてやらないと。
吉田は道を急いだ。
「お帰りなさいませ。それ……三津さんの?」
掃除をしていたアヤメが吉田を見つけて駆け寄ってきた。
汚れた草履に目を落として顔を顰める。
「ちょっと道を辿ってみたら落ちてた。多分三津の。」
「私綺麗にします。また安心して出掛けられるように願い込めときますね!」
アヤメの言葉と笑顔に吉田はふっと笑みを浮かべて草履を托した。
「よろしく頼むよ。」
藩邸内は静かで三津は取り乱すことなく過ごせてるみたいだ。
「三津ただいま。」
声をかけて障子を開けると部屋の隅で蹲ったまま寝息をたてているのを見つけた。
「風邪引くぞ。」
触れるときっと起きてしまう。吉田はそっと掛け布団をかけてやった。
その傍らに腰を下ろして寝顔を見つめた。
「鬼の子なんか宿すんじゃないよ……。」
時折辛そうに眉を顰めるその寝顔に吸い寄せられるまま,額にそっと口付けた。
「ん……。」
蹲っていた体が身じろいだ。それからゆっくり瞼が上がった。
「起こしちゃったねごめん。」
「っ!お帰りなさい!」
視界いっぱいに吉田の顔があって三津は慌てて起き上がった。
「ご飯は食べれた?よく眠れた?」
「サヤさんとアヤメさんとお昼は一緒に食べました。怖い夢は見ませんでした。」
それを聞いて安堵の笑みを浮かべた。
「でもアヤメさんに後ろから肩を叩かれた時に悲鳴あげちゃって……。」
申し訳無い事をしたとしょんぼり肩を落とした。「それは仕方ない。ご飯食べてくれたなら安心だ。
部屋からは出なかった?」
「えっと小五郎さんに会いに行きました。サヤさんとアヤメさんに付いて来てもらって。少し離れたとこからちょっとだけ話をして……でも会話続かなくて逃げて来てそのまま寝ちゃってました。」
三津は笑って頬を掻いた。
「そうか。でもそう焦る必要はないからな。」
三津が立ち直ろうとしてるのは嬉しい。だけど離れてしまうのは寂しい。まだ頼っていてもらいたい。
「今夜は自分の部屋で寝られる?」
「……ちょっと怖い。」
さっきは夢を見なかったけど,もしまた見てしまったら冷静でいられる気はしない。だから傍に誰か居て欲しい。
吉田は口角を上げて目を細めた。弱っている所に浸け込むのは卑怯だと分かっている。
それでも頼られるのは今しかないとも思う。
今はただ好きな女を甘やかしたい。
「怖いけど自分の部屋に戻ります。」
吉田の願い虚しく甘やかせてはくれなかった。一人で大丈夫と強がった。
「分かった。でも偶に様子を見に行くよ。」
その申し出にはお願いしますと頭を下げてくれた。
「じゃあ夕餉の仕度手伝って来ます!」
「え?」
吉田が数度目を瞬かせてるうちに三津は手を振って出て行ってしまった。
「サヤさーん何かお手伝いさせてもらえませんか?」
「昨夜,三津は土方に襲われたよ。」
「……え?」
「土方に凌辱されて逃げ帰って来た。ボロボロだったよ。
首筋や胸元に何度も吸われた痣があってさ,声枯らして泣いてさ,それでもまだまだ泣き散らしてさ。痛々しいんだ。」
途中で慌ただしく帰ってしまった理由を知り幾松の手が小刻みに震え出した。心臓が嫌な脈の打ち方をする。
「ここに来る途中どこで襲われたのか探したんだ。http://jennifer92.livedoor.blog/archives/35181917.html https://note.com/ayumu6567/n/nfdc01eb4bcfd?sub_rt=share_pb https://community.joomla.org/events/my-events/dokohe-lianretekarerundato-zhan-kong-shen-goue.html そしたらね河原に三津の草履が落ちてた。腹立たしいよ,あんな所で三津に恐怖と不快感を与えたなんてね。」
吉田の殺意に満ちた目に幾松の全身から血の気が引いた。「そう言う訳だから,もし桂さんが幾松さんの前に姿を見せないとしたらそれが原因。
今は三津の傷を癒やすのに必死だから。」
言いたいのはそれだけだと吉田は幾松を残して部屋を出た。
三津の物と思われる泥だらけの草履を片手で持ち藩邸へと戻る道を歩く。
何故河原だったのか。吉田は容易に考えがついた。
『何かあると川へ行く癖は何とかした方が良さそうだね。』
きっと嫌な気持ちを水に流してから帰ろうとしたんだろう。三津はいつもそうしていた。嫌な事は水に流すのと言っていたのを思い出す。
「嫌な記憶も……流れてくれたらいいのに。」
三津はどうしてるだろうか。もし泣いてるのであれば抱きしめてやらないと。
吉田は道を急いだ。
「お帰りなさいませ。それ……三津さんの?」
掃除をしていたアヤメが吉田を見つけて駆け寄ってきた。
汚れた草履に目を落として顔を顰める。
「ちょっと道を辿ってみたら落ちてた。多分三津の。」
「私綺麗にします。また安心して出掛けられるように願い込めときますね!」
アヤメの言葉と笑顔に吉田はふっと笑みを浮かべて草履を托した。
「よろしく頼むよ。」
藩邸内は静かで三津は取り乱すことなく過ごせてるみたいだ。
「三津ただいま。」
声をかけて障子を開けると部屋の隅で蹲ったまま寝息をたてているのを見つけた。
「風邪引くぞ。」
触れるときっと起きてしまう。吉田はそっと掛け布団をかけてやった。
その傍らに腰を下ろして寝顔を見つめた。
「鬼の子なんか宿すんじゃないよ……。」
時折辛そうに眉を顰めるその寝顔に吸い寄せられるまま,額にそっと口付けた。
「ん……。」
蹲っていた体が身じろいだ。それからゆっくり瞼が上がった。
「起こしちゃったねごめん。」
「っ!お帰りなさい!」
視界いっぱいに吉田の顔があって三津は慌てて起き上がった。
「ご飯は食べれた?よく眠れた?」
「サヤさんとアヤメさんとお昼は一緒に食べました。怖い夢は見ませんでした。」
それを聞いて安堵の笑みを浮かべた。
「でもアヤメさんに後ろから肩を叩かれた時に悲鳴あげちゃって……。」
申し訳無い事をしたとしょんぼり肩を落とした。「それは仕方ない。ご飯食べてくれたなら安心だ。
部屋からは出なかった?」
「えっと小五郎さんに会いに行きました。サヤさんとアヤメさんに付いて来てもらって。少し離れたとこからちょっとだけ話をして……でも会話続かなくて逃げて来てそのまま寝ちゃってました。」
三津は笑って頬を掻いた。
「そうか。でもそう焦る必要はないからな。」
三津が立ち直ろうとしてるのは嬉しい。だけど離れてしまうのは寂しい。まだ頼っていてもらいたい。
「今夜は自分の部屋で寝られる?」
「……ちょっと怖い。」
さっきは夢を見なかったけど,もしまた見てしまったら冷静でいられる気はしない。だから傍に誰か居て欲しい。
吉田は口角を上げて目を細めた。弱っている所に浸け込むのは卑怯だと分かっている。
それでも頼られるのは今しかないとも思う。
今はただ好きな女を甘やかしたい。
「怖いけど自分の部屋に戻ります。」
吉田の願い虚しく甘やかせてはくれなかった。一人で大丈夫と強がった。
「分かった。でも偶に様子を見に行くよ。」
その申し出にはお願いしますと頭を下げてくれた。
「じゃあ夕餉の仕度手伝って来ます!」
「え?」
吉田が数度目を瞬かせてるうちに三津は手を振って出て行ってしまった。
「サヤさーん何かお手伝いさせてもらえませんか?」