そこまで言うなら一旦話し合おうか。いいぞ言い分くらい聞いてやる。三津は満面の笑みで吉田をチラつかせた。
「高杉さん,私すみさんが激怒した理由はよぉぉぉく分かります。サヤさんもね?女の敵は生かしておかない部類の方なんですよ。」
「待て!あの醜女を女として見てやってるのに何で怒る!?女として見られてる事を喜ぶべきやろ!?
ぬぁぁぁ!!待てっ!!振り上げ禁止!!三津さんの握力じゃ稔麿絶対手から離れるっ!!」
大刀より扱いやすいとは言え,使い慣れてない三津がそんな刃物を振り上げると振り下ろす前に手からすっ飛ぶ可能性は大いにある。
高杉は顔を真っ青にして自分を仕留めに来ようとする三津を必死に制した。
傍観していた入江は,それもそうだなと背後から振り上げた手首を掴んだ。そして耳元で甘ーく囁いた。
「三津の可愛い手が落ちてもいけん。怪我する前に貸して?」
https://carinacyril.livedoor.blog/archives/2774957.html https://carinacyril.blogg.se/2024/may/entry.html https://paul.asukablog.net/Entry/5/
「そっ!そんな耳元で言わんでも聞こえますっ!」
三津は顔を真っ赤にして入江から飛び退いた。相変わらずいい反応するなぁと笑いながら,入江は吉田の剣先を高杉へと向けた。
「罰なら私が与えよう。」
「満面の笑顔で言う事か。」
高杉は口をへの字に曲げたが,長年の付き合いでこれはじゃれ合いだと確信を持てるから多少なりとも安堵した。三津の場合は何を仕出かすか分からない怖さがある。
「前にも木戸さんにこてんぱんにやられたやろが。」
山縣は前回の粗末なブツ御開帳事件を思い出して懲りねぇなぁと鼻で笑った。文や三津に対する無礼は命取りだと言うのに。
「それが俺やろが。」
立てた親指でビシッと己を指す高杉に全員が“まぁねぇ”と笑った。
「それに罰なんか与えんでも勝手に死による。」
「……お前がその冗談言うのは狡いっちゃ。」
入江は他人事みたいに欠伸をする高杉の頭を軽く叩いた。
「別に気にする事でもないやろ。誰だっていつかは死ぬ。それが早いか遅いかだけの事。俺はたまたま時期が見えとるだけ。
もしかしたら今日の帰りに有朋が馬に蹴られて死ぬかもしれん。」
「おい,俺を殺すな。」
高杉は真顔で詰め寄る山縣をけたけた笑った。
「先生も言っちょったやん。今日と言う同じ日は二度と来ん。やけぇ俺は自分に嘘つく生き方したくなかったんじゃ。己に従って生きる。」
「だとしても文ちゃんに手ぇ出すのは命知らずもええとこやったけどな。あの時の先生の顔……。今でも忘れん……。般若……般若みたいな顔……。」
入江は手の甲を口に当てて込み上げて来る笑いを押し留めようとした。政で感情的に論じる師の姿は何度も見て来た。だが妹に関して感情を顕にして怒り狂う姿はある意味新鮮だった。
「そんな顔で怒り狂うってのはその……あれですよね。お酒呑ませて……事件ですよね。」
三津は男として以前に人として最低だからなと,おうのが居てもそこは責めずにいられなかった。
「それやったかな?呑ませんでも蔵に引きずり込んだりとかもしよったからな。」
「ホンマに猿以下ですね。」
文が根に持つのは当然だ。どうも一度や二度の話でもないらしい。おうのも呆れや嫉妬やもう何とも言いようのない顔で溜息をついていた。
「そう言う三津さんの旦那だって俺の事言えんからな。
それに先生が玄瑞より先に“妹と結婚せんか”って声掛けたん木戸さんやからな。
それを“考えときます〜”とか言って江戸に留学して逃げたんやぞ。」
「そうやったな。あいつ逃げたってぼやいとるの聞いた。」
入江はその時の恩師の顔も昨日の事のように思い出せると笑った。
「文さんにお似合いなのは兄上なんでそれで良かったんです。」