京つう

日記/くらし/一般  |洛中

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2024年05月09日

「まだ乳繰りあっとる途中や。

「まだ乳繰りあっとる途中や。邪魔すんな。」


山縣はあえて入江の怒りを煽りに行った。すると分かりやすく入江の目元が引き攣った。ようやく日頃の仕返しが出来るとほくそ笑んだが,


「お前には千年早いわ。」


入江は刀を握ってない左手で山縣の髪を鷲掴みにした。


「いっ!いでぇぇぇ!!卑怯者ぉぉぉ!!」


てっきり刀で対抗してくるとばかり思っていた山縣は気持ち悪いほど綺麗に作られた笑みの入江に悪態をついた。


「は?卑怯?言っとる意味が分からん。三津離さんのやったらこのまま頭皮剥がすぞ。」


入江から飛び出したとんでもない発言に山縣と共に三津も体を震わせた。普段穏やかな入江からまさかそんな暴力的な発言が飛び出すとは。吉田じゃあるまいし。


「九っ……九一さん……その辺で止めてあげて……。」


「有朋が三津離すのが先。」 https://plaza.rakuten.co.jp/aisha1579/diary/202405030000/ https://blog.goo.ne.jp/debsy/e/29dfcc15c7477e214b10b7119453c90a https://freelance1.hatenablog.com/entry/2024/05/03/004647?_gl=1*1wq9vb7*_gcl_au*NjYyNTYyMDMxLjE3MDkwNDE3OTU.


それを聞いて山縣は即座に三津を解放した。入江はそれで良しと刀を収めて三津を自分の方へ引き寄せた。


「まだっ……嫁ちゃんと話の途中やったのに……。」


山縣は両手で頭を抱えながら声を震わせた。半泣きである。


「山縣さん,今すぐ気持ちが整う訳やないんで心に違和感を感じたらその都度お話聞きますから。だから今全て解決しようとせんでいいんですよ。」


「嫁ちゃん……。」


半泣きだった山縣の両目からぼたぼたと涙が零れ落ちた。その様子に入江はさっきの行動は流石に大人げなかったなと反省した。


「有朋,今まで私らは堪えんにゃいけんかったかもしらん。でも今ここではそうする必要は無い。」


入江の言葉に山縣は無言で何度も頷いた。ただ声を上げて泣くのはやはり抵抗があったのか,歯を食いしばって声を押し殺して泣いていた。





その夜,入江は布団に寝転がり天井を見つめたままぼんやりしていた。


「有朋のあんな姿見るとは思わんかったな。」


「本当は繊細な方なんですね。」


その左隣りの布団で横になっていた三津も同じ様に天井を見つめて呟いた。


「……よく分からんが何故こうなった?」


そして三津の左隣りに寝そべる桂。狭いこの部屋で何故か三津を真ん中にして三人川の字になっている。入江は桂の方へ体を向けて含みのある笑みを向けた。


「たまにはええやないですか。」


「良くない。あらぬ噂立てられて困るのは三津だ。」


桂は三津越しにじっとりした目で睨んだ。この部屋で三人で寝るだなんて何を言われるか分かるだろうと捲し立てた。


「確かに困るので私は九一さんの部屋行きますね。」


どうせお前が出てけの応酬がなされるのだからここは私がと三津は起き上がった。


「三津もたまには一人でゆっくり寝たいやろ。今日はあっちで寝り。」


入江から予想に反する事を言われて三津と桂は二人して目を丸くして言葉を失くした。


「……ではお言葉に甘えて。」


「えっ!?私を九一の餌食にする気か!?」


桂は取り乱し,素直に布団を運び出そうとする三津の腕を掴んで必死に引き留めようとした。


「たまには男同士でお話するのもいいと思いますよ?じゃあおやすみなさい。」


三津は布団を抱え,笑みを残して部屋を出た。


「木戸さんはいつまで私に襲われると思っちょるん?私は男に興味ないです。そっちの趣味ないです。」


入江は馬鹿な人だなと喉を鳴らして笑った。吉田もその辺は純粋に信じてたなと思い出した。
ずっと揶揄われてたと気付いた桂は顔を真っ赤にした。信じた自分が恥ずかしいやら情けないやら,ずっと騙してきた入江が腹立たしいやら。
色んな感情が渦巻いた結果,盛大な溜息を一つついた。
  

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2024年05月09日

そこまで言うなら一旦話し合おうか

そこまで言うなら一旦話し合おうか。いいぞ言い分くらい聞いてやる。三津は満面の笑みで吉田をチラつかせた。


「高杉さん,私すみさんが激怒した理由はよぉぉぉく分かります。サヤさんもね?女の敵は生かしておかない部類の方なんですよ。」


「待て!あの醜女を女として見てやってるのに何で怒る!?女として見られてる事を喜ぶべきやろ!?
ぬぁぁぁ!!待てっ!!振り上げ禁止!!三津さんの握力じゃ稔麿絶対手から離れるっ!!」


大刀より扱いやすいとは言え,使い慣れてない三津がそんな刃物を振り上げると振り下ろす前に手からすっ飛ぶ可能性は大いにある。
高杉は顔を真っ青にして自分を仕留めに来ようとする三津を必死に制した。


傍観していた入江は,それもそうだなと背後から振り上げた手首を掴んだ。そして耳元で甘ーく囁いた。


「三津の可愛い手が落ちてもいけん。怪我する前に貸して?」 https://carinacyril.livedoor.blog/archives/2774957.html https://carinacyril.blogg.se/2024/may/entry.html https://paul.asukablog.net/Entry/5/


「そっ!そんな耳元で言わんでも聞こえますっ!」


三津は顔を真っ赤にして入江から飛び退いた。相変わらずいい反応するなぁと笑いながら,入江は吉田の剣先を高杉へと向けた。


「罰なら私が与えよう。」


「満面の笑顔で言う事か。」


高杉は口をへの字に曲げたが,長年の付き合いでこれはじゃれ合いだと確信を持てるから多少なりとも安堵した。三津の場合は何を仕出かすか分からない怖さがある。


「前にも木戸さんにこてんぱんにやられたやろが。」


山縣は前回の粗末なブツ御開帳事件を思い出して懲りねぇなぁと鼻で笑った。文や三津に対する無礼は命取りだと言うのに。


「それが俺やろが。」


立てた親指でビシッと己を指す高杉に全員が“まぁねぇ”と笑った。


「それに罰なんか与えんでも勝手に死による。」


「……お前がその冗談言うのは狡いっちゃ。」


入江は他人事みたいに欠伸をする高杉の頭を軽く叩いた。


「別に気にする事でもないやろ。誰だっていつかは死ぬ。それが早いか遅いかだけの事。俺はたまたま時期が見えとるだけ。
もしかしたら今日の帰りに有朋が馬に蹴られて死ぬかもしれん。」


「おい,俺を殺すな。」


高杉は真顔で詰め寄る山縣をけたけた笑った。


「先生も言っちょったやん。今日と言う同じ日は二度と来ん。やけぇ俺は自分に嘘つく生き方したくなかったんじゃ。己に従って生きる。」


「だとしても文ちゃんに手ぇ出すのは命知らずもええとこやったけどな。あの時の先生の顔……。今でも忘れん……。般若……般若みたいな顔……。」


入江は手の甲を口に当てて込み上げて来る笑いを押し留めようとした。政で感情的に論じる師の姿は何度も見て来た。だが妹に関して感情を顕にして怒り狂う姿はある意味新鮮だった。


「そんな顔で怒り狂うってのはその……あれですよね。お酒呑ませて……事件ですよね。」


三津は男として以前に人として最低だからなと,おうのが居てもそこは責めずにいられなかった。


「それやったかな?呑ませんでも蔵に引きずり込んだりとかもしよったからな。」


「ホンマに猿以下ですね。」


文が根に持つのは当然だ。どうも一度や二度の話でもないらしい。おうのも呆れや嫉妬やもう何とも言いようのない顔で溜息をついていた。


「そう言う三津さんの旦那だって俺の事言えんからな。
それに先生が玄瑞より先に“妹と結婚せんか”って声掛けたん木戸さんやからな。
それを“考えときます〜”とか言って江戸に留学して逃げたんやぞ。」


「そうやったな。あいつ逃げたってぼやいとるの聞いた。」


入江はその時の恩師の顔も昨日の事のように思い出せると笑った。


「文さんにお似合いなのは兄上なんでそれで良かったんです。」
  

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2024年05月09日

入江に優しく宥められて,おうのはか

入江に優しく宥められて,おうのはか細い声で“はい”とだけ答えた。


重い足取りで高杉の元へ帰るおうのを見送って,三津はふらりと海岸へ向かった。その後を入江と山縣がついて歩いた。


「何で有朋も付いてくるそ?ここは私に任せて二人きりにするのが普通やろ。相変わらず空気読めん奴やな。」


「俺も嫁ちゃん心配なんやけぇええやろが。」


「あの……そっと一人にしておくって選択肢もありますけど。」


三津は泣いてぐちゃぐちゃの顔だから出来れば放っておいてはくれないかと思いながら後ろを振り返った。
すると二人はきりっとした顔で,https://community.joomla.org/events/my-events/yi-qini-nuriga-yongitekitaga-gan-xinnaanoo-tsu.html https://carinacyril786.livedoor.blog/archives/2774933.html https://carina.zohosites.com/


「それはいけん。」


と声を揃えた。


「別に身投げしたりしませんよ?」


息ぴったりだった二人に,仲が良いのか悪いのか……面白い二人だとうっすら笑みを浮かべた。


「そうかもしれんけどいつも嫁ちゃんに支えてもらっちょるのにこういう時に何も出来んのは癪に障る。」


山縣がいつに無く真剣な顔で,俺が全て受け止めるなんて言うから三津は思わず吹き出した。


「は?それは私の役目やけぇ有朋は必要ない。と言うかお前を必要やと思った事はない。稔麿から見たお前はただの棒きれやけんな。」


「あ?昔の話引っ張りだすなや。俺の何処が棒きれじゃ。」


三津の事などそっちのけで二人は胸ぐらを掴み合った。『私には無理や……。』


もし出石の一件の“あの二人”に対峙した時,雅のような凛々しさで『夫を匿ってくださりありがとうございました。』なんて言えやしない。


『私はまだまだ子供なんかな……。』


三津は複雑な心境でおうのの方にちらりと目をやった。おうのは目に涙を溜めて無言でこちらも深く頭を下げた。


「私には……もったいないお言葉です……。」


おうのからすればお礼を言われる事などしていない。愛する人の側にいる者として当たり前の事をしてただけだ。
それが高杉の親にはそれが余計な事と責められ,高杉の側から排除された。


「私は……。」


どんなに頑張っても妾だ。


高杉からの愛情は充分に受け取っている。雅よりも側に居る。それでも本妻にはなれない。雅には勝てないのだ。


「私は一言お礼を伝えに来ただけなのでこれで。」


雅はお邪魔しましたとみんなに頭を下げて,梅の進と手を繋いで部屋を出た。おうのはその場で頭を下げてその背中を見送り,他の面々で玄関まで見送りに行った。


「雅さんはいつまでこちらに?」


「多分明日にはこちらを発つのでは……。お義父様は勘当を言い渡しましたので最期を見届けるおつもりはないかと……。」


入江の問いかけに雅は伏し目がちに答えた。そして軽く会釈をして屯所を出た。


『雅さんホンマは高杉さんの傍におりたいんちゃうん?』


その場に立ち尽くしていた三津だが,体は思わず玄関を飛び出して雅を追いかけていた。


「雅さんっ!」


その声に雅は立ち止まり,驚いた顔で振り返った。


「どうしましたか?」


「どうって……ホンマは高杉さんの傍に居りたいんちゃうんですか?心配なんちゃうんですか?」


雅は一瞬顔を歪めたが,すぐに表情を引き締めて微笑した。


「そうですね。ですがこればっかりは……。」


「そんな……。高杉さんのお父上は自分の息子が心配やないんですか!?」


「お義父様の実の心情は私には分かりません。ですが高杉家の名に傷を付けた事へのお怒りなのは間違いありませんし,跡継ぎにこの子がおりますので……。」


武士の家系だから。またそれかと三津の怒りは頂点に達したが,寂しそうに我が子を見下ろす雅の横顔にその怒りはみるみる鎮まっていった。


『私がこんなに怒ってどうする……。当事者の雅さんの方が何倍も苦しいのに……。』


それでも自分の立場を理解し本音を殺して全てを飲み込んで,高杉晋作の妻として努める姿に三津は何より虚しさが込み上げた。
  

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2024年05月08日

5月8日の記事

「何故泣かすような事を言う……。」


「また泣いてるの?私の泣き虫が小五郎さんにうつった?」


自分も甘味屋に居た頃や,新選組に身を置いていた時も泣き虫だったもんなぁと懐かしく思う。


「君達の愛が綺麗すぎるから。」


「なんですかそれ。」


愛が綺麗だなんて初めて聞いたと三津は笑う。でも桂は真剣に美しいんだと訴えた。https://community.joomla.org/events/my-events/san-jinha-xiang-shounishitetara-yu-jini-shi-jiangaka.html https://mathewanderson.livedoor.blog/archives/2774962.html
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「互いを思い遣る気持ちが,元々の心が綺麗だと言う事だ。私が汚れ過ぎてるのもあるから余計に胸が痛いよ……。」


桂の脳裏には去り際に“怒らんでやってくれ”と言い残した入江の表情が浮かんでいた。





「玄関であんなんされると流石に困る。他の隊士も気ぃ遣うでしょう。」


「分かっとるわ。ちょっと悪ふざけが過ぎただけや。もうやらんっちゃ。」


入江はお前には説経されたくないと伊藤を一睨みしてからそっぽを向いた。


「結局三津さんとはどうなってるんです?」


「それは私らだけが理解出来る関係や。」


珍しく入江の機嫌が悪い。だからと言って自分が機嫌を取る必要もなく,普段話せない本音でもぶつけようかと思った。


「まぁそりゃそうですけど。策士が策に溺れてるんですか?
藩邸でもちょくちょく隠れて三津さんにちょっかい出しといて本気になったらなす術無しですか。」


すると入江に横目で睨まれた。


『図星か。』


こんなに分かりやすい入江も珍しく,伊藤は面白くなっていた。塾生の頃から飄々として久坂や高杉達とはまた違った感性を持つ男が,こんなにも分かりやすく人間らしくあるのが新鮮で面白い。


「一応木戸さんの密偵してましたから,ある程度は知ってますよ。」


「……別に知られて困る事はしちょらんし。あれはあれで楽しかったからまたやっとるだけやし。」


「あぁなるほどね。その時の楽しさ思い出して寂しさ紛らわしてると。」


そう言えば更に眼光の鋭さが増した。これも図星らしい。


「別に手ぇ出したらいいやないですか。木戸さんも認めとるんやし。」


「それは出来ん……。」


『今の私はあの時の稔麿と同じやな。あの時は小馬鹿にしちょったけど,正攻法やないと三津が傷付くのを稔麿は気にしとったんやな……。』


深い溜息をつく自分を伊藤が信じられないと言った目で見てくるから思わず舌打ちをした。


「好きな人が傷付くんは見たくないやろ?……あぁ,お前はうちのすみを傷付けて捨てとるから何とも思わんか。」


「待って,今その話は狡い。」


思わぬ飛び火に伊藤は急に焦り始めた。


「狡くない。私が三津に手を出せん理由を明確に説明しとるだけや。私は三津を傷付けたくない。
体だけで満たされる間柄と思わせたくない。妻にしたいのは三津だけやと言うのを示したい。」


「ほっ本当に生涯独りのまま三津さんの傍に居るつもりですかっ!?」


「当たり前や。その為に死に物狂いで帰って来た。……まぁ傍から見りゃあ死に損なっての方が正しいんやろうけどな。」


すると伊藤は焦っていた態度を急変させて姿勢を正した。


「死に物狂いで合ってるでしょう。久坂さんが生かそうとしたんでしょ?だったら死に損ないではない。生きる為に戻って来たのだから間違ってない。
それにしても入江さんにここまで言わせる三津さん怖っ!どんだけ影響力持ってるんですか。」


伊藤が真剣な目で生きて帰って来た事を肯定してくれたのを驚いた矢先,三津が怖いと身を震わせるのを見て入江は笑った。お前こそ充分影響を受けてるだろうと声を上げて笑った。


「本当に……今となっちゃあ木戸さんが三津の存在をひた隠しにしたのがすんごい分かる。」


「歩く問題児ですしね。」


「まぁな。」


常に問題のど真ん中に居る三津を二人で喉を鳴らして笑った。


「でも凄いのは間違いないです。」


「そうやな。晋作に頭突きしよるしな。」


「あの絶叫は忘れませんね。」


三津に関しての話題は尽きないと二人は顔を見合わせて笑った。
楽しい思い出なのに,ここに吉田と久坂の笑い声がないのが酷く寂しく思えた。
  

Posted by Curryson  at 23:22Comments(0)

2024年05月03日

頭上からの声にゆっくり顔を上げた。

頭上からの声にゆっくり顔を上げた。


「よぉ久しいな。」


「元周様……。またそんな格好してお仕事から逃げて来たんです?」


「失礼やな。お前はまた参謀と散歩か?」


元周は三津の左側に並んで同じようにしゃがんだ。


「いえ,今日は山縣さんと。」


三津の弱々しい笑みに元周は何か考える素振りを見せた。https://william-l.cocolog-nifty.com/blog/2024/05/post-ad862c.html https://besidethepoint.mystrikingly.com/blog/f4afa7e6c1e http://jennifer92.livedoor.blog/archives/35668501.html


「あの噂は本当か?あいつが其方を捨てて他の女に乗り換えたと。」


「私を捨てたって……私は木戸の妻ですよ?」


三津は何を言ってるのと笑ったが元周は真顔で三津を見ていた。


「木戸から聞いておる。お前は参謀と恋仲なのだろう?木戸が無理矢理あいつから奪って婚姻を結んだと。」


三津は真面目な顔の元周をぽかんと見上げた。それからじわじわと笑いが込上げてきた。


「小五郎さんそんな事言ったんです?それは嘘ですよ。」


三津はそれから桂と出逢った経緯から今までの事,入江との事も包み隠さず全て話した。今度はそれを聞き終えた元周がぽかんとした。


「あいつ,説明が面倒臭くて我を騙したな……。まぁ良い。松子,話してくれてありがとう。それで,何故あの参謀は和菓子屋の女将などに現を抜かしとるんだ。」


「何で知ってるんです?」


「市中視察しておるからな。」


得意げに笑みを浮かべる元周に,全部筒抜けとは怖い藩主様だなぁと笑った。隠したってどうせ権力で喋らされる。三津は女将との最近の出来事を洗いざらい話した。


「なるほどな……。それで何でお前は参謀を突き放した?」


「えっ?話聞いてました?だから夫がいるのに都合良く好きな人を近くに置くのは普通やなくて……。」


「その関係は其方ら三人の問題だ。だが松子は自分の意思に反し,関係のない女将の意見を通した。それはおかしい。」


「でも女将の言う事が正しいと思ったから,私の意見でもあると思うんです。それに女将の身の上を聞いたら本当に自分が駄目やって思って……。」


それを聞いた元周は深い溜息をついて額に手を当てた。


「松子,お前が優し過ぎるのは知っておる。しかしだな?何故女将の問題をお前が抱える?
確かに女将には同情すべき点はある。だがそれは女将の問題であってお前の問題ではない。
女将は妬み嫉みで松子に責任転嫁,自分の非をなすり付けとるだけだ。
それをお前は馬鹿正直に自分の事かのように抱えとる。」


三津は呆然としてしまった。言葉の出ない三津に元周はまた深い溜息をついた。


「嫁の傷心時に旦那は何をしとるんだ。」


「元周様に命ぜられて仕事に行ったっきり帰って来ませんね。」元周はそうだったと豪快に笑った。


「許せ。もう二,三日で戻るであろう。そうだ松子,その間うちに来い。家内の話し相手にでもなってくれんか?お前ももう少し視野を広げた方がいい。それがいい。」


『これは拒否権ないなぁ。』


だって相手は藩主だから。でもそれもいいと思った。元周と話して随分と気が和らいだ。
如何に自分が一つの考えに固執していたかに気付いた。


「嫁ちゃーんっ!……げっ!元周様!」


「随分な反応やのう山縣。」


戻って来た山縣は馬鹿正直な反応をした。そして深く頭を下げて瞬時に謝罪した。


「まぁ良い。木戸が留守の間,松子はうちで預かる。木戸が戻れば迎えに来るように言っておけ。いいか?松子を引き渡すのは木戸のみだ。
  

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2024年04月12日

「これにて失礼する。」

「これにて失礼する。」


「西郷。」


障子に手をかけ出ようとしたところを桂が呼び止めた。西郷は何だと顔だけ桂に向けた。


「待たせてすまなかった。これからよろしく頼む。」


畳に擦り付けるまでは行かないが桂は深く頭を下げた。
一瞬目を見開いた西郷は“あぁ”と一言だけ残して部屋を出た。
西郷の足音が消えたのを確認して桂は部屋を飛び出した。一目散に三津の居る部屋に走った。


「桂さん!待ってくれ!」


その後を坂本が追いかけると取り乱した桂が女中を捕まえて声を荒げていた。


「ここに居た娘は!?」


「あっあっあのお方なら中岡様ともう屋敷を出られましたっ……!」 https://community.joomla.org/events/my-events/zuo-rino-shi-jueechoran.html https://mathewanderson.livedoor.blog/archives/2550853.html http://mathewanderson.zohosites.com/


凄い剣幕で詰め寄られた女中は泣きそうな顔でそう告げた。殺される!と言わんばかりの怯えっぷり。


「いつだ!?いつ出た!?」


「半刻ほど前に……。」


「そんな前にっ!坂本さん!三津はずっと中岡君がついてるんだね!?一人になる事はないんだね!?」


今度はくるりと振り返って坂本に掴みかかった。


「落ち着いてくれ!お嬢ちゃんをこんな危険な土地で一人にはせん!中岡が責任持ってこっちが用意した宿に連れてっとるけん安心せい。」


「どこの宿ですか!」


桂は早く連れて行けと坂本を引きずりながら小松邸を飛び出した。
坂本が自分達の世話になっている宿だから大丈夫だと宥めながら桂を案内した。


「遅かったな。何を長々話しとったんや。」


宿の部屋では中岡がどうせまた何か熱弁してたんだろうと呆れ顔で寛いでいた。


「中岡君!三津は!?」


「お嬢ちゃんは別の場所に。」


「何処だ!」


桂は中岡の両肩を掴んでずいっと顔を寄せた。その必死さに中岡も坂本も苦笑いするしかなかった。


「桂さん,三津さんと何があったかは知らんがここに来る条件として居場所は絶対に教えんっちゅう約束なんです。
向こうでも探すのに苦労した。奇兵隊の面々も全然居場所は言うてくれんかったき。」


「どうやって見つけたんですか……。」


自分に教えてくれないのは分かるが中岡にも言わないなんて,絶対に三津と会わせたくないと言う強い意志を感じて胸が痛かった。


「明確な場所は教えてくれなんだが探し方は教えてくれたき。じゃけぇ私も助言だけ。三津さんは京で唯一安心出来るっちゅう場所に帰りました。」


「唯一安心出来る場所……。中岡君,恩に着る。」


それだけで充分だ。桂は中岡と坂本に一礼するとすぐに宿を飛び出した。
それを見た坂本は豪快に笑った。あの色男でさえ三津の事となるとただの男だ。『三津が唯一安心出来る場所……。』


新選組を警戒してるなら功助とトキの元へは帰らない。だったら三津の帰る場所はただ一つ。桂は全力で京の町を駆け抜けた。


『明かりが……灯ってる……。』


ここへ帰るのはいつぶりだろうか。三津も京を離れ主の居ない家なのにその様子は住んでいた時のまま。


『そうだ……サヤさんだ……。』


三津はサヤとアヤメに留守を託していた。時折お礼の品を贈っていたのを思い出した。
中に居るのはサヤだろうか。桂は恐る恐る玄関の前に立った。微かに中から声が洩れてくる。その声に耳を澄ませた。


女子達の笑う声。その中に愛しい声を見つけた。確信を得たと同時に桂は中に踏み込んでいた。


突然戸の開いた音と中に駆け込んでくる足音に三人は体と顔を強張らせて部屋の隅で身を寄せていた。
  

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2024年04月12日

年が明けて三津は一之助と約束通り初詣に来た。

年が明けて三津は一之助と約束通り初詣に来た。


「本当に俺なんかと来て良かったんか?」


「はい!私は嬉しいですけど……一之助さんこそ毎日お店で顔合わせてるのに新年早々私と一緒でいいんですか?たまには別の女の子と出掛けたり……。」


三津が最後まで言い終わる前にカッと目を見開いて,


「絶対嫌じゃ!」


と声を張り上げた。その気迫に三津はすみませんと仰け反りながら謝った。


「女子は好かん……。」


「あー私は女として色気欠けてるのは自負してます。」


「違っ!女として見とらんって意味やなくてっ!いや!だからと言ってそういう目で見ちょるんでもなくてっ!」


急にあたふたしだした姿にぽかんとしてからふっと吹き出した。http://carinacyril.blogg.se/2024/april/entry.html https://paul.asukablog.net/Entry/4/ https://paul.3rin.net/Entry/4/


「分かってますよ。女とかやなくて仕事仲間として見てくれてはるんですよね?」


「まぁ……そう言う事や……。去年は入江さんとお参りしたんか?」


「去年……そうです。九一さんと二人で迎えた元日でしたね。その時私は幕府側に追われてたんで外に出るのが憚られたんですけど,九一さんは私の事考えながらあちこち連れ出してくれて……。」


三津はその思い出に目を細めた。その穏やかな横顔に一之助の胸は締め付けられた。入江を思い浮かべてあの顔をしてるのかと思うと苦しくなった。


「桂様との思い出は……。」


そこまで言葉にしてハッと口を手で押さえた。


「あの人とは……。あるようなないような……。」


『あの人って……。』


酔って本音を出した時は“小五郎さん”と言っていたのに今はその名すら言わない。


「すまん……。あっ三津さん甘酒好き?お参りしたら飲んでかん?」


一之助はおどおどしながらすぐ近くの茶屋を指差した。三津はにっと笑って飲みたいと言った。その表情に一之助はほっと胸を撫で下ろした。


参拝した後で二人は甘酒片手に長椅子に腰を下ろした。一之助は湯気の立つ器にふぅふぅと息をかけて口をつける姿を眺めた。


『咄嗟に思いついて飲んどるけど……。これ子孫繁栄とかの縁起物やったような……。』


「三津さん甘酒飲む意味知っとる?」


「体に良いですよね。夏によく飲んでましたよ。」


『良かった……変な意味に捉えられとらんかった……。』


ただ誰かに見られていたら冷やかしの元になる。それは厄介だ。
でもちらりと横目で見れば,美味しいねと無邪気に笑う顔にどうにでもなるかと思ってしまった。


「飲んだら帰ろか。」


「はい。」


「ちょっと散歩して帰ろか。」


ちょっとだけ欲を出した。少しだけ川沿いを散歩した。三津はにこにこしながらついて来たが,たまに物憂げに川を見つめた。その様子が一之助には引っかかった。


「川に何か思い出あるんか?」


「ちょっとだけ……。ここやなくて京の川ですけど……。」


「まだ好きやのにそんな無理して忘れないけんそ?」


一之助はまたハッとして手で口を押さえた。何でもかんでも思った事を吐き出す癖を何とかしなければと思いながら三津の様子を窺った。


「九一さんには忘れるんやなくて思い出として置いておける場所を作ればいいって言われました。なので思い出を整理してる最中です。
思い出して感傷に浸るんやなくて,あーそんな事あったなぁって他人事みたいに思えるぐらいにしようとしてて……。」


三津は今の状態を誠実に答えた。そう思う為には桂がくれた思い出以上の物をどんどん増やしていきたいのだと言った。だから今日誘ってもらえたのは凄く嬉しかったんだと。


「そう言う手伝いならいくらでもしちゃる。入江さんがおらん分,俺も手助けしちゃるけぇ。」


遠慮なんかするなと真っ直ぐな言葉をぶつけた。目の前の三津は驚いたような目で見てきたが,すぐにいつものように目を細めた。


「ありがとうございます。」


「思っとる事も言うて。」


入江がどんな言葉をかけてどんな風に接してきたかは分からない。今まで女子を避けてきたからどんな言葉をかければ喜ぶかも知らない。
それでも力になりたいと一之助には精一杯気持ちをぶつけた。
すると三津は表情に影を落としてぽつりぽつりと話し始めた。
  

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2024年04月12日

「その……喧嘩別れした相手ってのは……。」

「その……喧嘩別れした相手ってのは……。」


「桂様よ。」


「は!?」


文の一言にさらに目を見開いて三津を見た。この反応を予測出来てた四人はとりあえず食べようかと合掌をして箸を手に持った。


「一之助さんは呑んで落ち着き。」


文がしれっとお猪口を持たせて酒を注いだ。一之助は動揺を隠せずにその酒を一気に飲み干した。


「ほっ本当に桂様の?」


「嘘ついてごめんなさい……。」


三津がしゅんと背中を丸くして謝った。https://note.com/carinacyril786/n/n2a8f005df863?sub_rt=share_pb https://community.joomla.org/events/my-events/o-qian-guisan-jui-weiunka.html https://carinacyril786.livedoor.blog/archives/2531144.html


「三津さんは悪くない。私が勝手についた嘘やけぇ。ただでさえ京から来たってだけで珍しがられるのは目に見えちょったし,それに加えて桂様の相手やなんて知れたらもっと好奇の目に晒されたやろうから……。一之助さんごめんね。」


文に頭を下げられて一之助はとんでもないとぶんぶん首を振った。


「文ちゃんがそうするのは理解出来る。それで良かったと思う。やけん俺もこの事は他言せん……。ただ入江さんと本当に恋仲に見えたけそれがびっくりしたって言うか……。」


「フサも入江さんと姉上はお似合いと思ってます。」


「それで昨日は愚兄と進展あったそ?」


すみの単刀直入な質問に全員の視線が三津に向けられた。


「あの……そう言う雰囲気にはなったんですけど……私が……。私が……九一さんを小五郎さんって呼んでしまって……。言葉と仕草が重なって……無意識にそう呼んで……。私最低……。」


三津が膝の上で拳を握り肩を揺らして泣き出した。


「三津さん,悪い事は呑んで忘れり。」


文はすかさず三津に酒を手渡して呑ませた。素直にそれを呑んだ三津は溢れる涙を必死に拭った。すみも傍によって大丈夫大丈夫と唱えながら頭を撫でた。


「うちの愚兄それで何か言った?」


「笑って許してくれました……。私の覚悟が決まるまで最後まではしないって……。」


「……最後まではせんかったけど何かはされたん?」


妙な言い方が気になったすみが問うと三津は素直に頷いた。


「胸は舐められました……。」


「はぁー!やっぱど変態やな!三津さんごめん。うちの愚兄がごめん。」


すみは怒りに震えたが文とフサはちょっと頑張ったのね入江さんと悠長に呟いた。一之助はどう反応していいか分からず輪の中で硬直していた。


「大丈夫……やめてって言ったらやめてくれたんで……。それに今回は私も覚悟してたつもりやのにあの人の名前呼んじゃったし……。それでも怒らんかった入江さんが優し過ぎる……。」


そう言って泣き続けるから文は呑んで忘れろと更にお酒を呑ませた。「桂様に未練はないそ?」


あれから一月ほど経って三津の心境はどう変わったのか確かめたい。文が静かに話しかけると三津はしばらく黙り込んでから口を開いた。


「分かりません……。また迎えに来てくれるんちゃうかって思う時もたまにあります……。でもここにいる方が確実に幸せなんです。あの人の傍は苦しいだけ……。」


最後の一言にまだ桂への未練を感じた。きっとそう言い聞かせて忘れようとしてるだけなのだと。


「今も苦しいんやろ?」


「苦っ……しいっ!九一さんの事は好きなのに……あの人の面影をどこかに探してるのっ……。あんな終わり方したのにっ私の事,大事にしてくれてた時の思い出が重なるのっ……。まだ……そこに居るの……。」


三津は泣きじゃくって本音を吐き出した。普段の姿からでは想像できない本音だった。
いつもの振る舞いを見てるともうすでに記憶の片隅に居るか居ないかの過去の人になってるように思えていた。
だけど本心は忘れてないどころか想いも断ち切れてないように聞こえた。


「ごめんねごめんね。辛いこと聞いてごめんね。もうゆっくり休んだらいいけぇ。」


文は三津の背中を擦りながら寝ていいよと膝を貸した。三津はいつものようにすぐに眠りに落ちた。


「えっ寝たん?」


一之助は目の前の光景が異様すぎて呆気にとられた。
  

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2024年04月02日

入江の心の痛みが声を通して伝わってくる

入江の心の痛みが声を通して伝わってくる。好きと言うたったこれだけの感情がどうしてこんなに苦しみを与えてくるんだ。


入江の腕の中でふと父親がかけてくれたまじないを思い出した。
幼い頃,転んで痛いと泣いていた自分にかけてくれた言葉。


痛いの痛いの飛んでいけ。
これは心にも有効だろうか。今してあげられる事が分からなくて,子供騙しなまじないを心で唱えながらゆっくりと入江の背中を撫でた。


入江にこの痛みを与えているのは紛れもなく自分だと自覚はしている。 http://kiya.blog.jp/archives/24341447.html https://note.com/ayumu6567/n/n260d3e885a3f?sub_rt=share_pb https://community.joomla.org/events/my-events/ru-jiangno-wanno-zhongdefuto-fu-qingakaketekuretamajinaiwo-sii-chushita.html
入江を楽にするのも苦しめるのもこの私なんだ。自分でも酷い女だとしか言いようがない。


しばらく撫でていると徐々に腕が緩んできた。それから入江は三津の手を取り無言で歩き出した。
二人は海へ出て肩を並べて座り,何を言う事もなくずっと前だけを見ていた。


「私達のこの先に正解はあるんか?」


「分かりません……。多分正解なんてないと思います。でも答えはあると思うんです。
その答えも一つだけやなくて何通りもあって,それが正しいのか間違いなのか誰にも分からんから,選んだ答えが正しかったって自分で肯定するしかないんちゃいますかねぇ……。」


「難しいわ。考えるの嫌になって来たから帰ろ。」


三津も苦笑いでそうですねと立ち上がった。それから二人で大きな溜息をついた。


「文ちゃんに問い詰められたら素直に答えるか……。」


「それがいいです……。誤魔化しは効きませんから……。何か答えに繋がるお告げとかくれそう……。」


二人は閻魔のお告げを貰いに帰路を辿った。二人が家に戻ると文がちょうど洗濯物を取り込んでいたからそれを手伝って居間で三人で畳み始めた。


「で?重苦しい空気引っ提げて帰って来てどうしたん?」


「昨日の夜お前に言われた事真剣に考えて三津さんに伝えたそっちゃ。結局二人で悩んでも何も前に進まんかったそ。」


「似た者同士で悩んでもそりゃ何も進展せんわ。二人共何だかんだ言って今の関係がちょうどいいんやろ?」


二人は驚いた顔で頷いた。文はやっぱりなとからから笑った。分かりやすくて助かるとまで言った。


「三津さんは桂様の事許せそう?他の女抱いて孕ませたって言うの帳消しにして営み出来る?」


相変わらず文は鋭い所を突くなと二人は苦笑したがそこも重要な所だ。


「そう言われると許せる気がしいひん……。私根に持つんで。多分喧嘩したり嫌な事あるとすぐ思い出してまいそう……。」


「普通はそうよ。私も今だにこの人から受けた嫌がらせ根に持っとるぐらいやけぇ。」


文はどす黒い笑みで入江を見たが入江はすぐさま視線を外した。


「引きずりながら傍に居って嫌な思いするぐらいならこの際二人とも選ばんって言う手もあるで?その代わり二人には絶対体を許しちゃいけんけど。許したらただの都合のいい女にされてしまうけ。」


「どっちも選ばない……。あぁ悩むぐらいなら一人の方が楽かもですね。」


「やろ?私も主人と結婚して七年やけど主人がこの家におったのたった二年やけぇほぼ一人よ。もうそれに慣れたけぇ一人がいいわ楽で。」


「たった二年……。」


別に驚く事でもない。忙しくあちこち足を運んでる姿を見れば想像はつく。もし桂と夫婦になったとしても自分も文と同じ立場になるんだろう。
だとしたら夫婦である意味は?と思ってしまう。


「夫婦で良かったと思える事って何ですか?」


長く一緒に暮らしてもない,子もいない文にこんな事を聞くのは失礼になるのではと思ったが文はそうねぇと嫌な顔もせず考えた。


「同じ名字をもらえた事やろか。悲しいけどこれだけが私が主人の妻って証やから。
別に良かったのはこれだけやないのよ?思い出ももらってるし届く便りからも愛情は感じたし。
でも何が一番って言われたら,主人亡くした今は名前やろか。あとは私ら二人にしか分からん時間を共有出来た事。」


「名前かぁ。」


「入江三津になる?」


にっと笑って三津の顔を覗き込む入江の頭を文は拳で殴った。


「それがいけんそっちゃ!何で冗談みたく言うかね?」


ゴツンと音がして入江は頭を抱えて踞った。
  

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2024年04月02日

「私達にも優しくて目が合うと微笑んでくださる

「私達にも優しくて目が合うと微笑んでくださるんですが,たまに何を考えていらっしゃるか分からない謎めいた感じがいいと。」


すると文はフサの両肩に手を置いてしっかりと顔を合わせて諭すように言った。


「あれはねとりあえず目を見て微笑めば女は落ちるって思っとるんと,何考えちょるか分からん顔の時は大抵助平な事考えちょるそ騙されちゃいけん。いい?あれはただの変態。」


『酷い言われよう……。』


そう思いながらも三津も入江に暴言を吐き,変態呼ばわりしてるので人の事は言えない。


「入江さんは姉上とどうなりたいのでしょうね?」 https://note.com/ayumu6567/n/n703c85225f70?sub_rt=share_pb https://community.joomla.org/events/my-events/igami-heu-er-renwo-jiao-huni-jiantekara-san-jinha-ru-jiangno-muwo-jiante-xiaotta.html http://kiya.blog.jp/archives/24341394.html


変態なのは分かった。考え方も普通じゃないのならその彼が望むものは何でしょう?とフサは小首を傾げた。


「うーん……つげの櫛を贈りたいとは言われたし家族になろうとか言われるけど本心なのかふざけてるのか見極めが難しくて。」


三津が唸り声をあげている横で文は盛大な溜息をついて額に手を当てた。


「不器用が出ちょるわ。それ本心よ。今まで見て来たけどあの人自分から女口説く事せんそっちゃ。
来るもの拒まず去る者追わずやけ。」


そんな男がとうとう人を好きになる事を覚えたかと文はちょっと嬉しくもあった。やっと自ら人を好きになったのにまともな付き合い方をしてない男が世間で言う普通の恋とやらが出来るはずもない。
加えて相手は一癖も二癖もある男の想い人で一筋縄ではいかない女子。


『みんなで幸せになると言うのは難しいですねぇ兄上。』


文は海原に目を向け,こんな時あの兄ならどんな言葉をくれただろうかと思った。
それともう一つ。


『飛脚に頼んだあの文そろそろ届いたやろか。』


さて,これがどう転ぶかなと考えながら文は口角を上げた。


文の送った便りを高杉は無事に受取り部屋で一人で目を通した。


“ご無沙汰しております。高杉さんに対して時候の挨拶は私の労力の無駄になりますので省略させていただきます。”


「おう……相変わらずやな文の奴。」


高杉はその書き出しににやっと笑った。それから文の女性らしい文字を追って全てを読み終えた時,腹に手を当て大笑いをした。


「これは黙っちょらんな。くれぐれも桂さんによろしくか。」


最後の締めの一文を見返してからそれを手に赤禰と伊藤の所へ向かった。二人にそれを読めと手渡して二人が目を通すその脇でごろんと寝転がった。


「ふっ……相変わらず嫌われてんなお前。」


伊藤は冒頭の文を見て鼻で笑った。それから書かれてある内容に赤禰はおぉと声を漏らし伊藤はえー……と不満げに声を上げた。


「これ今日届いたそ?って事は二人が向こう着いてすぐ書いたんやない?」


赤禰は二人が出立してから今日までの日にちを指折り数えた。


「やろうな。二人から話聞いてすぐやろ。短時間でよう思いつくわ。血は争えんな。」


高杉はふんっと鼻を鳴らして笑った。そしてこれをいつ桂に見せようか思案した。





その夜,三津が眠ってから文は入江の部屋へ行った。


「起きてる?」


外から声をかければ少し不機嫌そうな顔をした入江が襖を開けた。


「起きとるわ。そっちが起きとけ言うたやろが。」


三津には内緒で話があるから起きて待ってろと告げられずっと起きて待っていた。


「また何か仕返しか?」


ムスッとしながら布団の上に胡座をかくと文は布団の脇に正座した。


「入江さんは三津さんどうするつもりなん?本気で嫁にするん?それともただ傍におりたいだけなん?」


「そんなん文ちゃんには関係ない事や。」


痛いところを突いてくる。触れてほしくない部分なだけに入江は文を突っぱねようとしたがそれで引き下がる文でもない目を合わそうとしない入江をまっすぐ見据えて文は口を開いた。


「もしよ?身分揃えられて上からの縁組の許しが出て正式に桂様と夫婦になったらどうするそ?それだけ好きで一緒に居たくて戻って来たのに離れられる?
それとも傍に居るつもり?不義密通なんかになったらどうなるか分かるやろ?」
  

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