京つう

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2024年04月12日

年が明けて三津は一之助と約束通り初詣に来た。

年が明けて三津は一之助と約束通り初詣に来た。


「本当に俺なんかと来て良かったんか?」


「はい!私は嬉しいですけど……一之助さんこそ毎日お店で顔合わせてるのに新年早々私と一緒でいいんですか?たまには別の女の子と出掛けたり……。」


三津が最後まで言い終わる前にカッと目を見開いて,


「絶対嫌じゃ!」


と声を張り上げた。その気迫に三津はすみませんと仰け反りながら謝った。


「女子は好かん……。」


「あー私は女として色気欠けてるのは自負してます。」


「違っ!女として見とらんって意味やなくてっ!いや!だからと言ってそういう目で見ちょるんでもなくてっ!」


急にあたふたしだした姿にぽかんとしてからふっと吹き出した。http://carinacyril.blogg.se/2024/april/entry.html https://paul.asukablog.net/Entry/4/ https://paul.3rin.net/Entry/4/


「分かってますよ。女とかやなくて仕事仲間として見てくれてはるんですよね?」


「まぁ……そう言う事や……。去年は入江さんとお参りしたんか?」


「去年……そうです。九一さんと二人で迎えた元日でしたね。その時私は幕府側に追われてたんで外に出るのが憚られたんですけど,九一さんは私の事考えながらあちこち連れ出してくれて……。」


三津はその思い出に目を細めた。その穏やかな横顔に一之助の胸は締め付けられた。入江を思い浮かべてあの顔をしてるのかと思うと苦しくなった。


「桂様との思い出は……。」


そこまで言葉にしてハッと口を手で押さえた。


「あの人とは……。あるようなないような……。」


『あの人って……。』


酔って本音を出した時は“小五郎さん”と言っていたのに今はその名すら言わない。


「すまん……。あっ三津さん甘酒好き?お参りしたら飲んでかん?」


一之助はおどおどしながらすぐ近くの茶屋を指差した。三津はにっと笑って飲みたいと言った。その表情に一之助はほっと胸を撫で下ろした。


参拝した後で二人は甘酒片手に長椅子に腰を下ろした。一之助は湯気の立つ器にふぅふぅと息をかけて口をつける姿を眺めた。


『咄嗟に思いついて飲んどるけど……。これ子孫繁栄とかの縁起物やったような……。』


「三津さん甘酒飲む意味知っとる?」


「体に良いですよね。夏によく飲んでましたよ。」


『良かった……変な意味に捉えられとらんかった……。』


ただ誰かに見られていたら冷やかしの元になる。それは厄介だ。
でもちらりと横目で見れば,美味しいねと無邪気に笑う顔にどうにでもなるかと思ってしまった。


「飲んだら帰ろか。」


「はい。」


「ちょっと散歩して帰ろか。」


ちょっとだけ欲を出した。少しだけ川沿いを散歩した。三津はにこにこしながらついて来たが,たまに物憂げに川を見つめた。その様子が一之助には引っかかった。


「川に何か思い出あるんか?」


「ちょっとだけ……。ここやなくて京の川ですけど……。」


「まだ好きやのにそんな無理して忘れないけんそ?」


一之助はまたハッとして手で口を押さえた。何でもかんでも思った事を吐き出す癖を何とかしなければと思いながら三津の様子を窺った。


「九一さんには忘れるんやなくて思い出として置いておける場所を作ればいいって言われました。なので思い出を整理してる最中です。
思い出して感傷に浸るんやなくて,あーそんな事あったなぁって他人事みたいに思えるぐらいにしようとしてて……。」


三津は今の状態を誠実に答えた。そう思う為には桂がくれた思い出以上の物をどんどん増やしていきたいのだと言った。だから今日誘ってもらえたのは凄く嬉しかったんだと。


「そう言う手伝いならいくらでもしちゃる。入江さんがおらん分,俺も手助けしちゃるけぇ。」


遠慮なんかするなと真っ直ぐな言葉をぶつけた。目の前の三津は驚いたような目で見てきたが,すぐにいつものように目を細めた。


「ありがとうございます。」


「思っとる事も言うて。」


入江がどんな言葉をかけてどんな風に接してきたかは分からない。今まで女子を避けてきたからどんな言葉をかければ喜ぶかも知らない。
それでも力になりたいと一之助には精一杯気持ちをぶつけた。
すると三津は表情に影を落としてぽつりぽつりと話し始めた。



Posted by Curryson  at 00:50 │Comments(0)

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