京つう

日記/くらし/一般  |洛中

新規登録ログインヘルプ



2023年12月29日

やたら愛想のいい溌剌とし

やたら愛想のいい溌剌とした笑顔で部屋に入って来たのは山崎。


「あ!斎藤さんのお友達!」


一度会った人は忘れない。
これも甘味屋で身に付いた三津の特技。


三津が覚えていた事に機嫌をよくして,図々しくもたえを押しのけて三津の前に座り込んだ。


山崎の馴れ馴れしい態度にたえは怪訝な目を向ける。http://jennifer92.livedoor.blog/archives/33683915.html https://freelance1.hatenablog.com/entry/2023/12/26/191350?_gl=1*h6ze4a*_gcl_au*MTYyMjM0Mjc5LjE3MDExNzAxMjA. https://travelerbb2017.zohosites.com/
それに対しても恐い顔しなさんな,と陽気に振る舞った。


「ちょうどええ薬持って来てるねん。見せてみ。」


山崎はかすり傷から打撲まで,全ての傷を診てから,足首に手を伸ばした。


「こんなに腫れて……。姉さん桶一杯に冷たい水用意してくれへん?」


頼みますと笑う顔も清々しい。
と三津は思ったけど,たえは相変わらず疑いの眼差し。
変な事してくれるなよと視線を突き刺して部屋を出た。


「それにしても女子がこんな生傷作って…。何しはったん?」



山崎は手際良く消毒を始めた。
思ったより繊細で手際がいいのに感心しながら,ヒリヒリした痛みに悶えた。


「知らない人に追い掛けられたんです。それで思いっきり転けたんです。」


それも道のど真ん中で。色んな人にも見られて恥ずかしかったんだと愚痴を零した。


「それは災難やったなぁ。」


「そうなんです。私を土方さんの女やと思ってて,勘違いやって言っても聞いてくれへんし,土方さんには帰り道ずぅーっと馬鹿って言われるし……。
それに傷はめっちゃ痛いし……。」


あちこちに出来た傷はじんわりと疼いて,襦袢が擦れる度にヒリヒリしてくる。


でも痛みなんてそのうち無くなる。
痛みよりもしぶとく体に残るのは恐怖の方。
それは目には見えなくて,ふとした時に現れる。


「……怖かったやろ。」


ぼーっと手当てを施す手ばかりを見つめていたら,その手が不意に頬に触れて来た。


『怖かったけど…。何が怖かったんやろ…。』


全てはあっという間だった。
男たちに囲まれた時はびっくりした。
土方の女と間違われてムッとした。


追っかけられた時はただただ必死だった。
捕まった時は転んだ恥ずかしさと痛みに耐えてた。


土方が現れた時はほっとした。
でも頃合を見計らってたみたいで釈然としなかった。


それから瞬く間もなく,片は付いた。
三津の頭の中は真っ白だった。


足元に広がる血溜まりだけが鮮やかで,その中には顔色一つ変えない土方。




人が斬られるのを目の当たりにしたのは二回目だった。


一回目は新平が斬られた時。


その時は,刀を向けられた恐怖に泣いた。
愛しい人を傷付けられた事に泣いた。
愛しい人を守れなかった事に泣いた。





今回は自分のよく知る人物が,人を斬った。


斬られるのではなくて,斬るのを見た。


土方の一振りは三津を助ける為の一振りで,彼が人を斬るのも日常茶飯事。


三津だってそれは分かってる。分かっていても土方が血を浴びる様を見たくなかった。
平静を貫いた姿に,堪らなく胸が苦しくなった。


「怖かった…。」


身を斬る音,飛び散る血,悲痛な声,それを創り出した人物。
初めて土方を怖いと思った。


『やっぱり私は刀を振る土方さんを…新選組のみんなを受け入れられへんのかもしれへん。』


人を斬るだけが彼らの全てじゃないのに。
それ以外の部分を見ていながら,実際目にしたら腰を抜かし声も出なかった。


助けてもらったお礼も言えなかった。
違う,言いたくなかった。
人を斬った相手にありがとうなんて言いたくなかった。


三津は両手で目を覆った。溢れる涙を止めたかった。


「全部出してしまい。そしたらすっきりして,顔は勝手に笑いよる。」


山崎はそれ以上は何も言わず,水で足を冷やしておくようにとだけ言い残して部屋を出た。



Posted by Curryson  at 19:39 │Comments(0)

上の画像に書かれている文字を入力して下さい
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。


QRコード
QRCODE
インフォメーション
【京つうからのお知らせ】
アクセスカウンタ
読者登録
メールアドレスを入力して登録する事で、このブログの新着エントリーをメールでお届けいたします。解除は→こちら
現在の読者数 0人
プロフィール
Curryson