2023年11月15日「お前が間者である線もま
「お前が間者である線もまだ捨てちゃいねえからな。妙な交流や行動は慎めってことだ。副長助勤格とは良いぞ」
桜花の脳裏には、道場での沖田と先程の松原の言葉が浮かんだ。
「つまり、沖田さんや松原さんとは良いということでしょうか」
その発言に土方は眉を動かす。
「沖田先生、松原先生と呼べ。https://mathewanderson.asukablog.net/Entry/1/ https://mathewanderson.3rin.net/Entry/1/ https://mathewanderson.animech.net/Entry/1/ ……良いか、お前には関係ねえかも知れねえが。新撰組ではな、役職ってモンがある。一番偉いのが、局長。次に副長。その次に副長助勤だ」
局長は近藤、副長は土方。副長助勤は沖田と松原かと小首を傾げた。
それを察したのか、土方は言葉を続ける。
「局長は頭だからな、近藤さん一人だ。副長は俺ともう一人、って奴がいる。副長助勤はもっと沢山いるが、知る必要はねえ」
とにかく、局長と副長は役職で、副長助勤は先生呼びをするようにと土方は念を押した。
「もし、お前が可笑しな行動をしたら、命は無いと思え。問答無用で斬り捨てる」
「わ……分かりました」
土方の物言いに圧倒され、桜花は何度も頷く。最初から丁寧に扱われるより、これくらいの方が丁度良かった。
「話しはそれだけだ。行って良い。あっ、紙も持っていけ!折角書いたんだから」
置いて行こうとした半紙を土方は半ば無理矢理押し付ける。ごめんなさいと謝る桜花を横目に、背を向けて文机へ向かった。 部屋を出た桜花は足早に八木邸へ戻ろうと、廊下を歩く。そこへいきなり真横の障子が開いた。
「わっ!」
思わず声を上げながら、そちらを見やると背丈の低い目元がぱっちりとした色白の男と目が合う。その後ろの部屋には出しっぱなしの布団や、脱いだ着物が散乱していた。
「アレ、君は誰?もしかして噂の、総司と試合をした子?」
その問い掛けに桜花は神妙に頷く。先程、土方から交流は避けるようにと言われたばかりなのだ。早速破る訳にはいかない。
「ふうん……?どれだけ屈強なオジサンかと思ったら、真逆だねッ。むしろ可愛いというか、のようだよ。……あッ、いきなりごめんね。俺は
。副長助勤サ」
一方的に言うと、藤堂はにっこりと笑った。それは眩しく、どちらが女だと問いたいくらいである。そして副長助勤と聞いて、それなら大丈夫かと安堵した。
「き、今日から八木邸で働かせて頂く、鈴木桜花と言います。よろしくお願いします」
「ねえ、歳は幾つ?同じくらいかな?」
早く立ち去らないと、いつ土方が来るか分からない。ひやひやしていると、藤堂の後ろから斎藤が現れた。
「……おい平助。道の邪魔だ」
「ええー、良いじゃん。君、挨拶した?この子、八木サンとこで働くんだってサ」
その言葉に斎藤は僅かに目元を動かす。まさか自分が捕らえて来た人間が、近くで働くことになるとは思わなかったのだろう。
「……そうか。俺は君と俺は同い年なんだよッ。ちなみに歳は二十」
え、と思わず声が漏れる。二十歳とは思えないほどに藤堂は可愛い容姿をしており、逆に斎藤は大人びていた。思ったより新撰組隊士は若く、自分と年齢があまり変わらないということに桜花は衝撃を受ける。
じろりと斎藤から睨まれ、桜花は慌てて口を押さえた。それを見た藤堂は面白そうに笑いだす。
「大丈夫だよ、皆同じ反応するから」
桜花は斎藤を見る。背丈は高く、凛々しい眉、三白眼に艶やかな黒髪。そして何といっても美声だった。藤堂と斎藤はまるで正反対の容姿をしているが、共通して言えるのは女にモテるだろうということ。
桜花の脳裏には、道場での沖田と先程の松原の言葉が浮かんだ。
「つまり、沖田さんや松原さんとは良いということでしょうか」
その発言に土方は眉を動かす。
「沖田先生、松原先生と呼べ。https://mathewanderson.asukablog.net/Entry/1/ https://mathewanderson.3rin.net/Entry/1/ https://mathewanderson.animech.net/Entry/1/ ……良いか、お前には関係ねえかも知れねえが。新撰組ではな、役職ってモンがある。一番偉いのが、局長。次に副長。その次に副長助勤だ」
局長は近藤、副長は土方。副長助勤は沖田と松原かと小首を傾げた。
それを察したのか、土方は言葉を続ける。
「局長は頭だからな、近藤さん一人だ。副長は俺ともう一人、って奴がいる。副長助勤はもっと沢山いるが、知る必要はねえ」
とにかく、局長と副長は役職で、副長助勤は先生呼びをするようにと土方は念を押した。
「もし、お前が可笑しな行動をしたら、命は無いと思え。問答無用で斬り捨てる」
「わ……分かりました」
土方の物言いに圧倒され、桜花は何度も頷く。最初から丁寧に扱われるより、これくらいの方が丁度良かった。
「話しはそれだけだ。行って良い。あっ、紙も持っていけ!折角書いたんだから」
置いて行こうとした半紙を土方は半ば無理矢理押し付ける。ごめんなさいと謝る桜花を横目に、背を向けて文机へ向かった。 部屋を出た桜花は足早に八木邸へ戻ろうと、廊下を歩く。そこへいきなり真横の障子が開いた。
「わっ!」
思わず声を上げながら、そちらを見やると背丈の低い目元がぱっちりとした色白の男と目が合う。その後ろの部屋には出しっぱなしの布団や、脱いだ着物が散乱していた。
「アレ、君は誰?もしかして噂の、総司と試合をした子?」
その問い掛けに桜花は神妙に頷く。先程、土方から交流は避けるようにと言われたばかりなのだ。早速破る訳にはいかない。
「ふうん……?どれだけ屈強なオジサンかと思ったら、真逆だねッ。むしろ可愛いというか、のようだよ。……あッ、いきなりごめんね。俺は
。副長助勤サ」
一方的に言うと、藤堂はにっこりと笑った。それは眩しく、どちらが女だと問いたいくらいである。そして副長助勤と聞いて、それなら大丈夫かと安堵した。
「き、今日から八木邸で働かせて頂く、鈴木桜花と言います。よろしくお願いします」
「ねえ、歳は幾つ?同じくらいかな?」
早く立ち去らないと、いつ土方が来るか分からない。ひやひやしていると、藤堂の後ろから斎藤が現れた。
「……おい平助。道の邪魔だ」
「ええー、良いじゃん。君、挨拶した?この子、八木サンとこで働くんだってサ」
その言葉に斎藤は僅かに目元を動かす。まさか自分が捕らえて来た人間が、近くで働くことになるとは思わなかったのだろう。
「……そうか。俺は君と俺は同い年なんだよッ。ちなみに歳は二十」
え、と思わず声が漏れる。二十歳とは思えないほどに藤堂は可愛い容姿をしており、逆に斎藤は大人びていた。思ったより新撰組隊士は若く、自分と年齢があまり変わらないということに桜花は衝撃を受ける。
じろりと斎藤から睨まれ、桜花は慌てて口を押さえた。それを見た藤堂は面白そうに笑いだす。
「大丈夫だよ、皆同じ反応するから」
桜花は斎藤を見る。背丈は高く、凛々しい眉、三白眼に艶やかな黒髪。そして何といっても美声だった。藤堂と斎藤はまるで正反対の容姿をしているが、共通して言えるのは女にモテるだろうということ。
2023年11月15日同級生に親が居ないこと
同級生に親が居ないことをからかわれ、理不尽な痛みに泣いていた。この頃は、人と遊べばからかわれると思い、一人で棒を振って遊んでいた。
それを見ないように進むと、今度は中学生くらいの自分が現れる。
『桜花ちゃんって親戚に育てられているの?お父さんとお母さんはどうしたの?』
『仕事で居ないの。でも、たまに会えるんだよ。大丈夫だよ、私には剣道があるから。寂しいとか思う暇が無いんだよね』
純粋に質問をしてくる友人に対して、https://carinacyrill.blogg.se/2023/november/entry.html https://carina.asukablog.net/Entry/1/ https://johnn.3rin.net/Entry/1/ 親が帰ってくるなどと嘘を吐いては、愛想笑いをしていた。この頃は、剣道で有名になれば親が会いに来てくれるのではないかと信じていた。
そして強くなればなるほど、誰も親のことには触れなくなったのだ。いつの間にか哀れみは賞賛へと変わった。痣が出来るくらいに兄弟子から稽古と称して叩かれようが、虐げられようが、桜花はもう泣かなくなった。
やがて場面は暗闇から小さな神社へと移る。何やら詳しくは知らなかったが、有名な刀が奉納されているという噂があった。
『お願いします、私を愛してくれる人に出会えますように。もう一人は嫌なんです』
そう願いを込めた瞬間、コツンと頭へ御守りが落ちてくる。摩訶不思議な現象だったが、御利益がありそうだと、肌身離さず持ち歩くようになった。
だが、一向にそのような人は現れない。むしろ、幼い時に見ていた夢を毎日見るようになった。時代劇のような世界、そして夢の中の自分へ慈しみを込めて優しく語りかける人々。
いつしか、それに対して愛憎の念を抱くようになった。この夢のせいで両親は自分を捨てた。しかし、夢の世界では誰も虐げて来ない。だが所詮は夢に過ぎないのだ。
──だから、私はそれを終わらせようとした。
なのに。私は今も夢を見ているのだろうか。長くて、嘘のようなのに本当の夢を見ているのか。
それなら、覚めない方が幸せなのかもしれない。覚めさせようとしている私なんて消えてしまえばいい──
そう思った刹那、身体が揺り起こされた。 重い目蓋を開けると、そこには木目の天井が広がっている。額には冷たい手拭いが乗せられ、胴も小手も付けたまま布団へ横になっていた。
「あッ、目が覚めましたか?良かった」
もぞもぞと動く気配を察してか、沖田が桜花の顔を覗き込んだ。そして申し訳なさそうに眉尻を下げる。
「……すみませんでした。つい、楽しくなっちゃって。久々に、本気でやって良いと言ってくれる人が現れたものだから……」
「……だい、じょ、ぶ、です」
大丈夫だと言おうとするが、喉が掠れて言葉がたどたどしかった。
「そうだ、良い物があります。口を開けて下さい」
言われるがままに口を開けると、沖田は懐から小さな袋を取り出す。するとそこから小さな飴を摘んでは、桜花の口内へ入れた。
「のど飴です。きっと良くなりますよ」
にこりと優しげな笑みを浮かべる沖田には、先程の鬼神のような迫力は無い。別人なのではないかと思うほどに、穏やかだった。
「……有難うございます」
「そうだ、目を覚ましたことを伝えて来なきゃ。待ってて下さいね」
沖田はそう言うと、立ち上がる。ほんのりとした飴の甘味を感じながら、桜花は部屋を出て行こうとする背に向かって話し掛けた。
「あの!」
「……はい?」
「あの、またお手合わせして頂けませんか。次も、全力で」
その言葉に、沖田はみるみる嬉しそうな表情になる。
「勿論です。よろしくお願いします」
そう言い残し、パタパタと部屋から出て行った。桜花は天井へ目を向けると、目蓋を閉じる。その裏には、沖田の攻撃を受けて吹っ飛ばされた時の光景が浮かんでいた。
──まるで踏み込んだ足すら見えなかった。気付けば突きが目の前に迫っていて、避けようと考える間もなく身体が浮いていた。
そもそも突き自体がかなり難しい技だと言うのに、沖田は難なく正確にやってみせている。しかもあの技力。
「……良いなあ」
桜花はポツリと呟いた。
「何が良いんだ?」
そこへスッと障子が開き、近藤と土方が入ってくる。桜花は慌てて起き上がろうとするが、それは制された。
「お前さん、頭を
それを見ないように進むと、今度は中学生くらいの自分が現れる。
『桜花ちゃんって親戚に育てられているの?お父さんとお母さんはどうしたの?』
『仕事で居ないの。でも、たまに会えるんだよ。大丈夫だよ、私には剣道があるから。寂しいとか思う暇が無いんだよね』
純粋に質問をしてくる友人に対して、https://carinacyrill.blogg.se/2023/november/entry.html https://carina.asukablog.net/Entry/1/ https://johnn.3rin.net/Entry/1/ 親が帰ってくるなどと嘘を吐いては、愛想笑いをしていた。この頃は、剣道で有名になれば親が会いに来てくれるのではないかと信じていた。
そして強くなればなるほど、誰も親のことには触れなくなったのだ。いつの間にか哀れみは賞賛へと変わった。痣が出来るくらいに兄弟子から稽古と称して叩かれようが、虐げられようが、桜花はもう泣かなくなった。
やがて場面は暗闇から小さな神社へと移る。何やら詳しくは知らなかったが、有名な刀が奉納されているという噂があった。
『お願いします、私を愛してくれる人に出会えますように。もう一人は嫌なんです』
そう願いを込めた瞬間、コツンと頭へ御守りが落ちてくる。摩訶不思議な現象だったが、御利益がありそうだと、肌身離さず持ち歩くようになった。
だが、一向にそのような人は現れない。むしろ、幼い時に見ていた夢を毎日見るようになった。時代劇のような世界、そして夢の中の自分へ慈しみを込めて優しく語りかける人々。
いつしか、それに対して愛憎の念を抱くようになった。この夢のせいで両親は自分を捨てた。しかし、夢の世界では誰も虐げて来ない。だが所詮は夢に過ぎないのだ。
──だから、私はそれを終わらせようとした。
なのに。私は今も夢を見ているのだろうか。長くて、嘘のようなのに本当の夢を見ているのか。
それなら、覚めない方が幸せなのかもしれない。覚めさせようとしている私なんて消えてしまえばいい──
そう思った刹那、身体が揺り起こされた。 重い目蓋を開けると、そこには木目の天井が広がっている。額には冷たい手拭いが乗せられ、胴も小手も付けたまま布団へ横になっていた。
「あッ、目が覚めましたか?良かった」
もぞもぞと動く気配を察してか、沖田が桜花の顔を覗き込んだ。そして申し訳なさそうに眉尻を下げる。
「……すみませんでした。つい、楽しくなっちゃって。久々に、本気でやって良いと言ってくれる人が現れたものだから……」
「……だい、じょ、ぶ、です」
大丈夫だと言おうとするが、喉が掠れて言葉がたどたどしかった。
「そうだ、良い物があります。口を開けて下さい」
言われるがままに口を開けると、沖田は懐から小さな袋を取り出す。するとそこから小さな飴を摘んでは、桜花の口内へ入れた。
「のど飴です。きっと良くなりますよ」
にこりと優しげな笑みを浮かべる沖田には、先程の鬼神のような迫力は無い。別人なのではないかと思うほどに、穏やかだった。
「……有難うございます」
「そうだ、目を覚ましたことを伝えて来なきゃ。待ってて下さいね」
沖田はそう言うと、立ち上がる。ほんのりとした飴の甘味を感じながら、桜花は部屋を出て行こうとする背に向かって話し掛けた。
「あの!」
「……はい?」
「あの、またお手合わせして頂けませんか。次も、全力で」
その言葉に、沖田はみるみる嬉しそうな表情になる。
「勿論です。よろしくお願いします」
そう言い残し、パタパタと部屋から出て行った。桜花は天井へ目を向けると、目蓋を閉じる。その裏には、沖田の攻撃を受けて吹っ飛ばされた時の光景が浮かんでいた。
──まるで踏み込んだ足すら見えなかった。気付けば突きが目の前に迫っていて、避けようと考える間もなく身体が浮いていた。
そもそも突き自体がかなり難しい技だと言うのに、沖田は難なく正確にやってみせている。しかもあの技力。
「……良いなあ」
桜花はポツリと呟いた。
「何が良いんだ?」
そこへスッと障子が開き、近藤と土方が入ってくる。桜花は慌てて起き上がろうとするが、それは制された。
「お前さん、頭を
2023年11月15日か。んで、何故昨日は新
か。んで、何故昨日は新撰組から逃げた?逃げさえしなければ、捕まることも無かったろう」
「それは……」
高杉から新撰組について聞いていたからだとは言えない。
「あのような剣幕で追い掛けられたら、誰だって逃げたくなるというか……。それに、私……刀の鞘で人の頭を殴ってしまったので」
「そりゃあそうだ。うちは君と違って、https://carinacyril.blogg.se/2023/november/entry.html https://paul.asukablog.net/Entry/1/ https://paul.3rin.net/Entry/1/ 面構えが怖い男共が多いからなァ。して、頭を殴ったとは?」
「ええと、新撰組……の人に斬りかかろうとしていたので。こう、落ちていた鞘で……」
桜花は面を打つ素振りをして見せた。すると近藤は愉快そうに声を上げて笑う。だが直ぐに土方に睨まれては大きな肩を竦めた。
「……歳。この素直な坊やは本当に何も無いと思うぞ。しかもそれどころか、うちの隊士の命の恩人じゃないか」
鶴の一声ならぬ、近藤の一声に土方はううんと唸りながら、大きく息を吐く。
「近藤さんが言うなら……。だが……」
「うむ。良かったな、坊や。それにしても、君の居住まいと言葉遣いには気品がある。名のある家の子なのだろう。早く、御家族と会えると良いな」
近藤は感心したように言うが、特別なことは何も無かった。ただ未来の教育の賜物というだけである。
「……家族。そうですね」
ちくりと胸の奥が痛むのを感じつつ、桜花は愛想笑いを見せた。
「それにしたって、島原とは。がどんな所か分かって言ってんのか?」
「分かりませんが……、京で情報が集まる場所だと聞きました。そこで下働きをすれば、いつかは同じ境遇の人と出会えるだろうと」
曇りなき目でそう言う桜花を見て、近藤と土方は目を合わせる。土方に至っては、溜め息すら吐いていた。
「……どんな意地の悪い御仁に教えられたかは知らねえが、お前さんのような世間を知らなそうな奴が、下働きなんざする場所じゃねえよ。色街だ。ん、分かるか?綺麗なが、男を相手に接待をするんだ」
「いろまち……」
「そうだ。江戸と京では、ちっとばかし異なるがな。江戸で云うところの、だよ。女を抱く場所だ。まあ、京では酒を楽しむ意味合いが強そうだが」
女を抱く、と脳裏で繰り返してはその意味がやっと分かったのか、みるみる顔を赤らめる。
その様子を見た近藤は、何かを考え込んだ。「……そうだ、君。良ければうちで下働きをしないか」
その言葉に驚いたのは桜花だけではなく、土方も同様である。形の良い、切れ長の瞳を見開いていた。
「近藤さん!何を考えてんだよッ。こんな素性の知れねえ奴をうちに置ける訳が無ェだろうッ」
「正しくは、八木さんの所だよ。前川さんは一家揃って引越しちまったが、八木さんは未だに住んでいる。俺らの活動が広がるにつれて、不逞な輩に狙われちまうかも知れないじゃないか」
八木とは、この前川邸と同じく新撰組へ自宅を屯所として貸した一家を指す。前川邸と異なるのは、未だに住み続けているということである。そこの下働き兼護衛として桜花を住まわせようと云うのだ。
「手のかかるヤンチャな坊主が居るのに、俺らの面倒まで掛けているからなァ。申し訳なくて」
そう言うと、近藤は土方の袖を引き、耳元へ口を寄せる。
「──よく考えてみろ。この育ちの良さそうな振る舞い……、もし幕府のお偉いさんのご子息だったらどうする。当面、行動には見張りを付ければ良い。間者だったらその場で斬れば良いだけじゃねえか」 思えば、高杉も同じようなことを言っていたなと思い出す。だが、他人の空似など良くある話だ。この世に三人は自分とそっくりな人間がいると言われるくらいなのだから。
「嘘を吐いていないことを前提とすると、お前さんはさしずめそれに、と近藤は桜花の手元を見た。
「それは……」
高杉から新撰組について聞いていたからだとは言えない。
「あのような剣幕で追い掛けられたら、誰だって逃げたくなるというか……。それに、私……刀の鞘で人の頭を殴ってしまったので」
「そりゃあそうだ。うちは君と違って、https://carinacyril.blogg.se/2023/november/entry.html https://paul.asukablog.net/Entry/1/ https://paul.3rin.net/Entry/1/ 面構えが怖い男共が多いからなァ。して、頭を殴ったとは?」
「ええと、新撰組……の人に斬りかかろうとしていたので。こう、落ちていた鞘で……」
桜花は面を打つ素振りをして見せた。すると近藤は愉快そうに声を上げて笑う。だが直ぐに土方に睨まれては大きな肩を竦めた。
「……歳。この素直な坊やは本当に何も無いと思うぞ。しかもそれどころか、うちの隊士の命の恩人じゃないか」
鶴の一声ならぬ、近藤の一声に土方はううんと唸りながら、大きく息を吐く。
「近藤さんが言うなら……。だが……」
「うむ。良かったな、坊や。それにしても、君の居住まいと言葉遣いには気品がある。名のある家の子なのだろう。早く、御家族と会えると良いな」
近藤は感心したように言うが、特別なことは何も無かった。ただ未来の教育の賜物というだけである。
「……家族。そうですね」
ちくりと胸の奥が痛むのを感じつつ、桜花は愛想笑いを見せた。
「それにしたって、島原とは。がどんな所か分かって言ってんのか?」
「分かりませんが……、京で情報が集まる場所だと聞きました。そこで下働きをすれば、いつかは同じ境遇の人と出会えるだろうと」
曇りなき目でそう言う桜花を見て、近藤と土方は目を合わせる。土方に至っては、溜め息すら吐いていた。
「……どんな意地の悪い御仁に教えられたかは知らねえが、お前さんのような世間を知らなそうな奴が、下働きなんざする場所じゃねえよ。色街だ。ん、分かるか?綺麗なが、男を相手に接待をするんだ」
「いろまち……」
「そうだ。江戸と京では、ちっとばかし異なるがな。江戸で云うところの、だよ。女を抱く場所だ。まあ、京では酒を楽しむ意味合いが強そうだが」
女を抱く、と脳裏で繰り返してはその意味がやっと分かったのか、みるみる顔を赤らめる。
その様子を見た近藤は、何かを考え込んだ。「……そうだ、君。良ければうちで下働きをしないか」
その言葉に驚いたのは桜花だけではなく、土方も同様である。形の良い、切れ長の瞳を見開いていた。
「近藤さん!何を考えてんだよッ。こんな素性の知れねえ奴をうちに置ける訳が無ェだろうッ」
「正しくは、八木さんの所だよ。前川さんは一家揃って引越しちまったが、八木さんは未だに住んでいる。俺らの活動が広がるにつれて、不逞な輩に狙われちまうかも知れないじゃないか」
八木とは、この前川邸と同じく新撰組へ自宅を屯所として貸した一家を指す。前川邸と異なるのは、未だに住み続けているということである。そこの下働き兼護衛として桜花を住まわせようと云うのだ。
「手のかかるヤンチャな坊主が居るのに、俺らの面倒まで掛けているからなァ。申し訳なくて」
そう言うと、近藤は土方の袖を引き、耳元へ口を寄せる。
「──よく考えてみろ。この育ちの良さそうな振る舞い……、もし幕府のお偉いさんのご子息だったらどうする。当面、行動には見張りを付ければ良い。間者だったらその場で斬れば良いだけじゃねえか」 思えば、高杉も同じようなことを言っていたなと思い出す。だが、他人の空似など良くある話だ。この世に三人は自分とそっくりな人間がいると言われるくらいなのだから。
「嘘を吐いていないことを前提とすると、お前さんはさしずめそれに、と近藤は桜花の手元を見た。