2024年10月13日描かれた蘭丸の姿を指でなぞりなが
描かれた蘭丸の姿を指でなぞりながら、胡蝶は目のに大粒の涙を溜めた。
絵の中の蘭丸は、胡蝶が一人で縫い上げた衣装に身を包み、優しい微笑みをえている。
つい数日前までこの世の人であった許嫁が、今はもういない…。
帰蝶が今一度 蘭丸の名を呟きながら、瞳に溜まった涙を頬に流していると
『──失礼致しますぞ』
報春院が前触れもなく部屋の中に入って来た。
胡蝶は着物の袖口で涙をい、素早く出迎えの姿勢をとった。
『胡蝶、少し良いか?』
『…はい』
報春院は胡蝶の前に腰を下ろすと、薄暗い室内を見渡し、小さな溜息を吐いた。
『いくら表立って動けぬからというても、かように辛気臭いところに引きこもっておっては身体に毒じゃ』
たまには庭へでも出られたらどうじゃ?と報春院は優しく告げる。https://jennifer92.livedoor.blog/archives/36884208.html https://note.com/ayumu6567/n/nad6702f4266d?sub_rt=share_pb https://annapersonal.joomla.com/3-uncategorised/8-2024-10-11-83-32-24
『…有り難う存じます。されど、にも身体が不自由そうな姿を見せては、に怪しまれます故』
『案ずるには及ばぬ。ご不調であることは既に皆にも伝えてありまするし、そうそう、のこともな、
いつまでも罹病のせいにばかりも出来ぬ故、安土から立ち退く際に足を痛めたのだと皆には申しておきました』
口元のことも別の理由を考えねばなと、報春院が軽やかに笑うと
『──またこれを眺めておられたのか?』
ふいに、膝元に置いてある絵巻物に視線を落とした。
胡蝶は憂いの表情のまま、黙って巻物を片付けてゆく。
『胡蝶、確かにそなたの心情は察するに余りある。お濃殿との入れ替わりで戸惑っているところへ、信長とお濃殿、蘭丸殿を一度に失ったのじゃからな』
『……』
『されど、いつまでもに暮れている訳にもいかぬであろう。何せ、今のそなたはお濃殿じゃ。亡き信長殿の正室として、
誰よりも毅然としていなければならぬ。信長殿や蘭丸殿とて、そなたがいつまでも左様な有り様では、安心してへ旅立てぬではないか』
言われずとも、そのことは胡蝶自身も重々理解していた。
無茶でも困難でも、託された以上は濃姫を演じ抜き、動揺する女たちをめねばならないのだ。
しかし頭ではどんなに理解していても、どうしても心が付いていかない。
これまでいことや辛抱することが多かった分、腹は誰よりも据わっている気でいたが、
胡蝶はここに来て、自分の弱さと度胸のなさを、まざまざと思い知らされていた。
れる胡蝶を見て、報春院はふっと一息吐くと
『そなたに、これを』
着物のを取り出して、胡蝶に差し出した。
『……これは?』
『お濃殿から預かっていた、そなた宛の文じゃ』
『 ?! 母上様から…』
胡蝶は目を見張り、慌てて文を報春院から受け取った。
それは、濃姫が京へ出立する前に、《 ここに委細が書き記してある 》と言って、報春院に託していた、あの文であった。
『いつそなたに渡すか悩んでいたのじゃが、今 渡すことに致しまする』
『…お様』
『それを読んで、少しはお心を落ち着けられよ』
報春院は静かに言い置くと、すくっと立ち上がり、そのまま部屋から出て行った。
胡蝶はそれを見送ると、一度 文を畳の上に置いてから、表包みを外し、中から折りの巻紙を取り出した。
両手で広げることが出来ない為、右手でゆっくりと折りたたまれた巻紙を広げてゆく。
そこには『 胡蝶へ 』から始まる、今となっては懐かしいものになってしまった濃姫の字が、美しい書体で並んでいた。
胡蝶は胸の奥に込み上げてくるものを感じながら、静かに文面に目を泳がせていった。
《 ──胡蝶。
この文を
絵の中の蘭丸は、胡蝶が一人で縫い上げた衣装に身を包み、優しい微笑みをえている。
つい数日前までこの世の人であった許嫁が、今はもういない…。
帰蝶が今一度 蘭丸の名を呟きながら、瞳に溜まった涙を頬に流していると
『──失礼致しますぞ』
報春院が前触れもなく部屋の中に入って来た。
胡蝶は着物の袖口で涙をい、素早く出迎えの姿勢をとった。
『胡蝶、少し良いか?』
『…はい』
報春院は胡蝶の前に腰を下ろすと、薄暗い室内を見渡し、小さな溜息を吐いた。
『いくら表立って動けぬからというても、かように辛気臭いところに引きこもっておっては身体に毒じゃ』
たまには庭へでも出られたらどうじゃ?と報春院は優しく告げる。https://jennifer92.livedoor.blog/archives/36884208.html https://note.com/ayumu6567/n/nad6702f4266d?sub_rt=share_pb https://annapersonal.joomla.com/3-uncategorised/8-2024-10-11-83-32-24
『…有り難う存じます。されど、にも身体が不自由そうな姿を見せては、に怪しまれます故』
『案ずるには及ばぬ。ご不調であることは既に皆にも伝えてありまするし、そうそう、のこともな、
いつまでも罹病のせいにばかりも出来ぬ故、安土から立ち退く際に足を痛めたのだと皆には申しておきました』
口元のことも別の理由を考えねばなと、報春院が軽やかに笑うと
『──またこれを眺めておられたのか?』
ふいに、膝元に置いてある絵巻物に視線を落とした。
胡蝶は憂いの表情のまま、黙って巻物を片付けてゆく。
『胡蝶、確かにそなたの心情は察するに余りある。お濃殿との入れ替わりで戸惑っているところへ、信長とお濃殿、蘭丸殿を一度に失ったのじゃからな』
『……』
『されど、いつまでもに暮れている訳にもいかぬであろう。何せ、今のそなたはお濃殿じゃ。亡き信長殿の正室として、
誰よりも毅然としていなければならぬ。信長殿や蘭丸殿とて、そなたがいつまでも左様な有り様では、安心してへ旅立てぬではないか』
言われずとも、そのことは胡蝶自身も重々理解していた。
無茶でも困難でも、託された以上は濃姫を演じ抜き、動揺する女たちをめねばならないのだ。
しかし頭ではどんなに理解していても、どうしても心が付いていかない。
これまでいことや辛抱することが多かった分、腹は誰よりも据わっている気でいたが、
胡蝶はここに来て、自分の弱さと度胸のなさを、まざまざと思い知らされていた。
れる胡蝶を見て、報春院はふっと一息吐くと
『そなたに、これを』
着物のを取り出して、胡蝶に差し出した。
『……これは?』
『お濃殿から預かっていた、そなた宛の文じゃ』
『 ?! 母上様から…』
胡蝶は目を見張り、慌てて文を報春院から受け取った。
それは、濃姫が京へ出立する前に、《 ここに委細が書き記してある 》と言って、報春院に託していた、あの文であった。
『いつそなたに渡すか悩んでいたのじゃが、今 渡すことに致しまする』
『…お様』
『それを読んで、少しはお心を落ち着けられよ』
報春院は静かに言い置くと、すくっと立ち上がり、そのまま部屋から出て行った。
胡蝶はそれを見送ると、一度 文を畳の上に置いてから、表包みを外し、中から折りの巻紙を取り出した。
両手で広げることが出来ない為、右手でゆっくりと折りたたまれた巻紙を広げてゆく。
そこには『 胡蝶へ 』から始まる、今となっては懐かしいものになってしまった濃姫の字が、美しい書体で並んでいた。
胡蝶は胸の奥に込み上げてくるものを感じながら、静かに文面に目を泳がせていった。
《 ──胡蝶。
この文を
2024年10月10日ねられているのか、水篠はやれやれという顔をする。
ねられているのか、水篠はやれやれという顔をする。
「さりとて水篠。私に出来る信忠様への恩返しと申したら、あのお方の良き妻となり、おでお支え申しあげることだけ。
大きな後ろがある訳でも、多額の持参金がある訳でもない私が、もしも信忠様のお気に召さなかったら……」
信忠の自分への愛情は文を通じて痛いほど伝わっていたが、やはり直に会うとなると話も違ってくる。
もしも自分が信忠の好みでなかったら?
もしも信忠が想像していた「松姫」の人物像が、実際とかけ離れていたら? https://mathew.joomla.com/1-uncategorised/1-2024-10-09-13-11-21 https://mathewanderson.livedoor.blog/archives/4685775.html https://mathewanderson.zohosites.com/
そんなことを考える度に、松姫は平手で心臓を鷲掴みにされたような感覚に
「何度となく申し上げましたが、ご心配はご無用にございます。松姫様は才知もご器量も、共に優れているのですから」
水篠は胸を張ってそう告げた。
松姫自身はそれほどの器量ではないと思っていたが、から見る限りでは、松姫は美人の部類であった。
やや面長な顔立ちではあったが、鼻筋はつんと高く、切れ長な目元は実に涼やかで、
百合の花のようにで上品な美しさが、その白い満面に収まっているようであった。
かつて信長が濃姫に、松姫はやも知れぬと冗談半分に言っていたこともあったが、
武田信玄の弟・信廉が描いたとされている信玄(晴信)像(持明院所蔵)を見る限りでは、目鼻立ちやなど、
全体的にすっとした印象があり、巷で言われているような図体の大きい、のような印象は受けない。
松姫の生母である側室・油川夫人も美女と名高く、少なくともこの両親から産まれた姫が醜女であろうはずもなかった。
「自信を持たれませ。信忠様は、姫様のご容姿ではなく、文面から伺える、姫様のお心にかれたのですから」
「…水篠」
「それは姫様もご同様にございましょう?」
松姫はその黒い瞳の中に小さな光を湛えて、こっくりと頷いた。
「そうじゃな…。私が信忠様のご容姿を気にかけていないのと同じように、きっと信忠様も、ただ会えることだけを楽しみにして下されていることであろう」
「左様でございますとも」
水篠は笑顔で頭を垂れると
「それよりも早よう御輿の方へ。せっかく迎えの方々をお遣わし下されたのに、遅れたりしては信忠様に申し訳が立ちませぬ故」
そう言って、松姫を再び輿の中へと導いた。
松姫が輿に乗り込むと、担ぎ手の男たちによって輿は軽々と持ち上げられ、またゆっくりと行列は進み始めた。
輿の中の松姫は、ふいに着物の袖に手を入れると、から一通の文を取り出した。
折り畳まれた文を丁寧に広げ、その末尾に目を向ける。
文の最後には
《 ──此度こそ、あなた様を我が正室としてお迎え致したく候。妙覚寺にてお越しになるのをお待ち申し上げております 信忠 》
と書かれている。
松姫は柔和な笑みを漏らすと、文を胸の上に抱いて、うっとりと瞳を潤ませた。
『 他の姫君を正室に迎えることをみ、ひとえに私と会える日を待ち続けて下された信忠様。
今日ようやく、あなた様の想いにえることが出来まする。 ──待っていて下さい、今あなた様の元へ参ります故 』
松姫は胸をませながら、進んでゆく長い長い道を越しに眺めていた。
すると突然、松姫の輿が大きく揺れ、行列の進行が止まった。
松姫は『 何事…!? 』という顔をして、思わず目を左右にやる。
そうこうしている内に輿は再び地に下ろされ、前の御簾が水篠によって慌ただしく巻き上げられた。
「如何したのです? かような所で止まるとは」
「…それが…」
と言って、水篠は軽く行列の先頭に目をやると
「信忠様の御側近の長谷川殿なる者が、姫様に急ぎお会いしたいと
「さりとて水篠。私に出来る信忠様への恩返しと申したら、あのお方の良き妻となり、おでお支え申しあげることだけ。
大きな後ろがある訳でも、多額の持参金がある訳でもない私が、もしも信忠様のお気に召さなかったら……」
信忠の自分への愛情は文を通じて痛いほど伝わっていたが、やはり直に会うとなると話も違ってくる。
もしも自分が信忠の好みでなかったら?
もしも信忠が想像していた「松姫」の人物像が、実際とかけ離れていたら? https://mathew.joomla.com/1-uncategorised/1-2024-10-09-13-11-21 https://mathewanderson.livedoor.blog/archives/4685775.html https://mathewanderson.zohosites.com/
そんなことを考える度に、松姫は平手で心臓を鷲掴みにされたような感覚に
「何度となく申し上げましたが、ご心配はご無用にございます。松姫様は才知もご器量も、共に優れているのですから」
水篠は胸を張ってそう告げた。
松姫自身はそれほどの器量ではないと思っていたが、から見る限りでは、松姫は美人の部類であった。
やや面長な顔立ちではあったが、鼻筋はつんと高く、切れ長な目元は実に涼やかで、
百合の花のようにで上品な美しさが、その白い満面に収まっているようであった。
かつて信長が濃姫に、松姫はやも知れぬと冗談半分に言っていたこともあったが、
武田信玄の弟・信廉が描いたとされている信玄(晴信)像(持明院所蔵)を見る限りでは、目鼻立ちやなど、
全体的にすっとした印象があり、巷で言われているような図体の大きい、のような印象は受けない。
松姫の生母である側室・油川夫人も美女と名高く、少なくともこの両親から産まれた姫が醜女であろうはずもなかった。
「自信を持たれませ。信忠様は、姫様のご容姿ではなく、文面から伺える、姫様のお心にかれたのですから」
「…水篠」
「それは姫様もご同様にございましょう?」
松姫はその黒い瞳の中に小さな光を湛えて、こっくりと頷いた。
「そうじゃな…。私が信忠様のご容姿を気にかけていないのと同じように、きっと信忠様も、ただ会えることだけを楽しみにして下されていることであろう」
「左様でございますとも」
水篠は笑顔で頭を垂れると
「それよりも早よう御輿の方へ。せっかく迎えの方々をお遣わし下されたのに、遅れたりしては信忠様に申し訳が立ちませぬ故」
そう言って、松姫を再び輿の中へと導いた。
松姫が輿に乗り込むと、担ぎ手の男たちによって輿は軽々と持ち上げられ、またゆっくりと行列は進み始めた。
輿の中の松姫は、ふいに着物の袖に手を入れると、から一通の文を取り出した。
折り畳まれた文を丁寧に広げ、その末尾に目を向ける。
文の最後には
《 ──此度こそ、あなた様を我が正室としてお迎え致したく候。妙覚寺にてお越しになるのをお待ち申し上げております 信忠 》
と書かれている。
松姫は柔和な笑みを漏らすと、文を胸の上に抱いて、うっとりと瞳を潤ませた。
『 他の姫君を正室に迎えることをみ、ひとえに私と会える日を待ち続けて下された信忠様。
今日ようやく、あなた様の想いにえることが出来まする。 ──待っていて下さい、今あなた様の元へ参ります故 』
松姫は胸をませながら、進んでゆく長い長い道を越しに眺めていた。
すると突然、松姫の輿が大きく揺れ、行列の進行が止まった。
松姫は『 何事…!? 』という顔をして、思わず目を左右にやる。
そうこうしている内に輿は再び地に下ろされ、前の御簾が水篠によって慌ただしく巻き上げられた。
「如何したのです? かような所で止まるとは」
「…それが…」
と言って、水篠は軽く行列の先頭に目をやると
「信忠様の御側近の長谷川殿なる者が、姫様に急ぎお会いしたいと
2024年10月10日やがて輿の行列が、目下に街並み
やがて輿の行列が、目下に街並みが見渡せる、やや開けた場所に出ると
「──しとめて下され」
輿に垂れ下がるの奥から、若い女人の声が響き、行列は静かにその進行をとめた。
輿がゆっくりと地面に下ろされると、周囲の女たちによって御簾が手早く巻き上げられ、輿の前にはき物が揃えられた。
「、手を貸しておくれ」
中の女人が、白く細い手を外に伸ばすと、水篠と呼ばれた中年の女が、素早くその手を掴んで、輿から降りる手助けをした。
すると中から、見事なが花染めの小袖を身にった一人の姫君が、
るように輿から降り立ち、水篠を連れて、下の街並みが見える道の端へと静かに歩を進めた。
「──何と良い景色、良い空気なのであろう。のう、水篠」 https://www.minds.com/blog/view/217308926149206369 https://carinacyril786.livedoor.blog/archives/4685723.html https://note.com/carinacyril786/n/nf9ef662b1e40?sub_rt=share_pb
「まことに。姫様の面差しも、心なしか明るう、華やいで見えまする」
「当然であろう。もうすぐ我が想い人に…、信忠様にお会い出来るのですから」
「ようやく、姫様のご宿願が叶う時が参ったのでございますね。姫様のとして、
私も此度は、実に誇らしい気持ちにございまする。──松姫様、ほんによろしゅうございました」
華やかな微笑を浮かべる松姫を見つめながら、水篠は嬉しそうに頭を垂れた。
「何せ姫様は、甲州によって武田家滅亡というき目にあってより、多大なご苦労をなさって参られました故」
「よのう。苦労という苦労はしておりませぬ」
らかに笑う松姫に「何をせになられます」と、水篠は強くかぶりを振る。
「不慣れな武蔵の国で、亡き兄上様方やご重臣の三人の姫をお育てになられながらの、ましやかなご生活。
これが、甲斐の虎と呼ばれて恐れられた信玄公の姫君のお暮らしかと、私はもう…姫様がごでご不憫で」
水篠はどこか芝居がかったように述べたが、その目には本当に涙が浮かんでいる。
「どうという事はない。雨に濡れ、今日明日のもない貧しい民たちの苦労を思えば、私は恵まれています。
それに、そなたや、督、貞、香具ら姫君たちが側にいてくれるお陰で、私は寂しさを感じるもないのですから」
「姫様…」
自分は幸せだと、松姫は気丈に笑ってみせた。
水篠は指先で涙をいながら頷いた。
「左様にございますね。よくよく考えれば、左様なご苦労を乗り越えられた姫様だからこそ、は、今日のような素晴らしき日を、姫様にお与え下されたのやも知れませぬ」
「与えて下さったのは御仏ではない。信忠様じゃ。…あのお方の揺らぐ事のなき心のが、私に幸を授けて下されたのです」
感謝しても足りぬ程だと、松姫は頭を下げるような仕草をした。
それには水篠も同感そうに首肯する。
「武田家と織田が敵味方に分かれてからも、信忠様は何かと姫様にお心遣いをお示し下さいました。我らが仮住いをしている金照庵へも、
周囲に悟られぬよう、わざわざご自分の御名を伏せて、密かに米やなどをお贈り下されて」
「私が “ 左様なお気遣いはなさらぬよう ” とお文にてお断り申しても、“ 幼い姫たちの為に ” と言われて、決して贈り返させては下されなんだ」
「松姫様が遠慮のうお受け取りあそばされるように、気遣こうて下されたのでございましょう」
「そうじゃな。……実にお優しきお方です、信忠様は」
松姫は遠い目をしてくと、やおら重い溜め息を吐いて
「そのお優しきお方は、私の事を気に入って下さるであろうか?」
不安そうな面持ちで水篠を見やった。
「まぁ姫様ときたら、またその問答をなさるおつもりですか?」
既に何回も
「──しとめて下され」
輿に垂れ下がるの奥から、若い女人の声が響き、行列は静かにその進行をとめた。
輿がゆっくりと地面に下ろされると、周囲の女たちによって御簾が手早く巻き上げられ、輿の前にはき物が揃えられた。
「、手を貸しておくれ」
中の女人が、白く細い手を外に伸ばすと、水篠と呼ばれた中年の女が、素早くその手を掴んで、輿から降りる手助けをした。
すると中から、見事なが花染めの小袖を身にった一人の姫君が、
るように輿から降り立ち、水篠を連れて、下の街並みが見える道の端へと静かに歩を進めた。
「──何と良い景色、良い空気なのであろう。のう、水篠」 https://www.minds.com/blog/view/217308926149206369 https://carinacyril786.livedoor.blog/archives/4685723.html https://note.com/carinacyril786/n/nf9ef662b1e40?sub_rt=share_pb
「まことに。姫様の面差しも、心なしか明るう、華やいで見えまする」
「当然であろう。もうすぐ我が想い人に…、信忠様にお会い出来るのですから」
「ようやく、姫様のご宿願が叶う時が参ったのでございますね。姫様のとして、
私も此度は、実に誇らしい気持ちにございまする。──松姫様、ほんによろしゅうございました」
華やかな微笑を浮かべる松姫を見つめながら、水篠は嬉しそうに頭を垂れた。
「何せ姫様は、甲州によって武田家滅亡というき目にあってより、多大なご苦労をなさって参られました故」
「よのう。苦労という苦労はしておりませぬ」
らかに笑う松姫に「何をせになられます」と、水篠は強くかぶりを振る。
「不慣れな武蔵の国で、亡き兄上様方やご重臣の三人の姫をお育てになられながらの、ましやかなご生活。
これが、甲斐の虎と呼ばれて恐れられた信玄公の姫君のお暮らしかと、私はもう…姫様がごでご不憫で」
水篠はどこか芝居がかったように述べたが、その目には本当に涙が浮かんでいる。
「どうという事はない。雨に濡れ、今日明日のもない貧しい民たちの苦労を思えば、私は恵まれています。
それに、そなたや、督、貞、香具ら姫君たちが側にいてくれるお陰で、私は寂しさを感じるもないのですから」
「姫様…」
自分は幸せだと、松姫は気丈に笑ってみせた。
水篠は指先で涙をいながら頷いた。
「左様にございますね。よくよく考えれば、左様なご苦労を乗り越えられた姫様だからこそ、は、今日のような素晴らしき日を、姫様にお与え下されたのやも知れませぬ」
「与えて下さったのは御仏ではない。信忠様じゃ。…あのお方の揺らぐ事のなき心のが、私に幸を授けて下されたのです」
感謝しても足りぬ程だと、松姫は頭を下げるような仕草をした。
それには水篠も同感そうに首肯する。
「武田家と織田が敵味方に分かれてからも、信忠様は何かと姫様にお心遣いをお示し下さいました。我らが仮住いをしている金照庵へも、
周囲に悟られぬよう、わざわざご自分の御名を伏せて、密かに米やなどをお贈り下されて」
「私が “ 左様なお気遣いはなさらぬよう ” とお文にてお断り申しても、“ 幼い姫たちの為に ” と言われて、決して贈り返させては下されなんだ」
「松姫様が遠慮のうお受け取りあそばされるように、気遣こうて下されたのでございましょう」
「そうじゃな。……実にお優しきお方です、信忠様は」
松姫は遠い目をしてくと、やおら重い溜め息を吐いて
「そのお優しきお方は、私の事を気に入って下さるであろうか?」
不安そうな面持ちで水篠を見やった。
「まぁ姫様ときたら、またその問答をなさるおつもりですか?」
既に何回も
2024年10月08日か───今ようやく分かる 』
か───今ようやく分かる 』
取っ手に両手をかけ、大きく手前に引いた。いた音を立てて杉戸が左右に開いてゆく。
すると、杉戸の開け放たれた前を挟んだその先、
あの古びた三宝尊が安置された最奥のに、白い寝衣の背が見えた。
中は真っ暗だったが、三宝尊の前に置かれた蝋燭の一つに火が灯されているらしく、そこだけぼんやりとした光を放っていた。
濃姫はいを覚えたが、ややあってから
「上様─…」
と声をかけると、その白い背がゆっくりとこちらを振り返った。
「お濃か?」
蝋燭の灯りが逆光となって、相手の面差しは影に隠れていたが、その声だけで信長本人だと分かる。
「上様…。やはりこちらにいらして──」 https://plaza.rakuten.co.jp/johnsmith786/diary/202409270000/ https://blog.goo.ne.jp/debsy/e/9b5cf8f015c00fabdcc6b0045a1bdd10 https://freelance1.hatenablog.com/entry/2024/09/30/195855?_gl=1*1j4ap3t*_gcl_au*MTY1Nzk5NjI1Ni4xNzI3NDMyMzI5
と、濃姫が歩み寄ろうとした瞬間
「来るな!!」
信長は地鳴りのような怒声を響かせた。
濃姫は驚き、慌てて足を止める。
「こちらに来てはならぬ!危険じゃ!」
「危険とは…どういう意味にございますか!?」
何故 行ってはいけないのかとくと
「そなた、ここがな場所か知っていて参ったのではないのか?」
信長は眉根を寄せて訊き返した。
「この大納戸の裏手には、寺の火薬庫がある」
「…火薬庫」
「儂も、この首を光秀にくれてやるつもりはない。──じゃがその為には、誰かが儂の遺骸をどこぞへ隠すか、
いは、我が身を跡形ものう、この世から吹き飛ばしてしまう以外に方法はない」
「では、上様は……もしやッ」
濃姫が両眼を広げるや否や、信長はヒュン!と、何かを杉戸の境にめがけて放った。
それは床の上でガシャンと音を立てて割れ、周囲に強い油の臭いを漂わせた。
信長は「その…」といて、仏像の前の蝋燭を手に取ると
「 “ まさか ” だ」
火がついたままの蝋燭を、油の上に放った。
「上様ーっ!」
と濃姫が叫んだ瞬間、ゴォッと炎が高く上がり、周囲に散った油へも引火した。
色の炎が、奥にいる信長の姿を隠すように大きく燃え上がった時
「逃げよ!お濃ッ」
「…!」
「逃げよ──!!」
信長がこちらを見つめながら、声の限りに叫んだ。
その光景を目にし、濃姫は芯からうち震えた。
同じだ…
私が初めて本能寺に参ったあの日から、繰り返し見たあの悪夢と…
これで、全てがになってしもうた…
濃姫の目に、落胆と絶望の涙が溢れた。
炎の向こうで、微笑んでいる信長の細面が見える。
『 何故、かような時においになるのですか…。 私を安心させようとしているのですか…。
それとも、今まで良くやってくれたと、私をろうて下さっているのですか… 』
濃姫は疲れ切ったような面差しに、微かな苦笑を浮かべた。
『 …そのどれであろうとも、お濃は嬉しゅうありませぬ。…あなた様のいない世に、お濃の楽も幸もありませぬ… 』
濃姫は頬を涙で濡らしながら、ゆっくりと床の上にれた。
濃姫にはもう泣くことしか出来なかった。
この絶望的な状況もそうだが、炎の奥に消えてゆく夫を前にして、何も出来ない自分がらなく惨めだった。
何と無力なのだろう…。
濃姫が悲痛に顔を歪め、れるように上半身を前に折った時
──ガシャンッ
と音を立てて、寝衣の懐に忍ばせていた道三の短刀が、床の上に転がり落ちた。
その、短刀の柄に金で刻まれていた二頭立波の紋が、濃姫をんだ。
何をしておるのだ、帰蝶…。
斎藤道三の娘じゃと豪語していた、先程までの威勢はどこへいった?
りし日の道三の声が、濃姫の頭の中でこだまのように響いた。
取っ手に両手をかけ、大きく手前に引いた。いた音を立てて杉戸が左右に開いてゆく。
すると、杉戸の開け放たれた前を挟んだその先、
あの古びた三宝尊が安置された最奥のに、白い寝衣の背が見えた。
中は真っ暗だったが、三宝尊の前に置かれた蝋燭の一つに火が灯されているらしく、そこだけぼんやりとした光を放っていた。
濃姫はいを覚えたが、ややあってから
「上様─…」
と声をかけると、その白い背がゆっくりとこちらを振り返った。
「お濃か?」
蝋燭の灯りが逆光となって、相手の面差しは影に隠れていたが、その声だけで信長本人だと分かる。
「上様…。やはりこちらにいらして──」 https://plaza.rakuten.co.jp/johnsmith786/diary/202409270000/ https://blog.goo.ne.jp/debsy/e/9b5cf8f015c00fabdcc6b0045a1bdd10 https://freelance1.hatenablog.com/entry/2024/09/30/195855?_gl=1*1j4ap3t*_gcl_au*MTY1Nzk5NjI1Ni4xNzI3NDMyMzI5
と、濃姫が歩み寄ろうとした瞬間
「来るな!!」
信長は地鳴りのような怒声を響かせた。
濃姫は驚き、慌てて足を止める。
「こちらに来てはならぬ!危険じゃ!」
「危険とは…どういう意味にございますか!?」
何故 行ってはいけないのかとくと
「そなた、ここがな場所か知っていて参ったのではないのか?」
信長は眉根を寄せて訊き返した。
「この大納戸の裏手には、寺の火薬庫がある」
「…火薬庫」
「儂も、この首を光秀にくれてやるつもりはない。──じゃがその為には、誰かが儂の遺骸をどこぞへ隠すか、
いは、我が身を跡形ものう、この世から吹き飛ばしてしまう以外に方法はない」
「では、上様は……もしやッ」
濃姫が両眼を広げるや否や、信長はヒュン!と、何かを杉戸の境にめがけて放った。
それは床の上でガシャンと音を立てて割れ、周囲に強い油の臭いを漂わせた。
信長は「その…」といて、仏像の前の蝋燭を手に取ると
「 “ まさか ” だ」
火がついたままの蝋燭を、油の上に放った。
「上様ーっ!」
と濃姫が叫んだ瞬間、ゴォッと炎が高く上がり、周囲に散った油へも引火した。
色の炎が、奥にいる信長の姿を隠すように大きく燃え上がった時
「逃げよ!お濃ッ」
「…!」
「逃げよ──!!」
信長がこちらを見つめながら、声の限りに叫んだ。
その光景を目にし、濃姫は芯からうち震えた。
同じだ…
私が初めて本能寺に参ったあの日から、繰り返し見たあの悪夢と…
これで、全てがになってしもうた…
濃姫の目に、落胆と絶望の涙が溢れた。
炎の向こうで、微笑んでいる信長の細面が見える。
『 何故、かような時においになるのですか…。 私を安心させようとしているのですか…。
それとも、今まで良くやってくれたと、私をろうて下さっているのですか… 』
濃姫は疲れ切ったような面差しに、微かな苦笑を浮かべた。
『 …そのどれであろうとも、お濃は嬉しゅうありませぬ。…あなた様のいない世に、お濃の楽も幸もありませぬ… 』
濃姫は頬を涙で濡らしながら、ゆっくりと床の上にれた。
濃姫にはもう泣くことしか出来なかった。
この絶望的な状況もそうだが、炎の奥に消えてゆく夫を前にして、何も出来ない自分がらなく惨めだった。
何と無力なのだろう…。
濃姫が悲痛に顔を歪め、れるように上半身を前に折った時
──ガシャンッ
と音を立てて、寝衣の懐に忍ばせていた道三の短刀が、床の上に転がり落ちた。
その、短刀の柄に金で刻まれていた二頭立波の紋が、濃姫をんだ。
何をしておるのだ、帰蝶…。
斎藤道三の娘じゃと豪語していた、先程までの威勢はどこへいった?
りし日の道三の声が、濃姫の頭の中でこだまのように響いた。