京つう

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2024年10月08日

か───今ようやく分かる 』

か───今ようやく分かる 』


取っ手に両手をかけ、大きく手前に引いた。いた音を立てて杉戸が左右に開いてゆく。



すると、杉戸の開け放たれた前を挟んだその先、

あの古びた三宝尊が安置された最奥のに、白い寝衣の背が見えた。

中は真っ暗だったが、三宝尊の前に置かれた蝋燭の一つに火が灯されているらしく、そこだけぼんやりとした光を放っていた。

濃姫はいを覚えたが、ややあってから

「上様─…」

と声をかけると、その白い背がゆっくりとこちらを振り返った。

「お濃か?」

蝋燭の灯りが逆光となって、相手の面差しは影に隠れていたが、その声だけで信長本人だと分かる。

「上様…。やはりこちらにいらして──」 https://plaza.rakuten.co.jp/johnsmith786/diary/202409270000/ https://blog.goo.ne.jp/debsy/e/9b5cf8f015c00fabdcc6b0045a1bdd10 https://freelance1.hatenablog.com/entry/2024/09/30/195855?_gl=1*1j4ap3t*_gcl_au*MTY1Nzk5NjI1Ni4xNzI3NDMyMzI5

と、濃姫が歩み寄ろうとした瞬間

「来るな!!」

信長は地鳴りのような怒声を響かせた。

濃姫は驚き、慌てて足を止める。

「こちらに来てはならぬ!危険じゃ!」

「危険とは…どういう意味にございますか!?」

何故 行ってはいけないのかとくと

「そなた、ここがな場所か知っていて参ったのではないのか?」

信長は眉根を寄せて訊き返した。

「この大納戸の裏手には、寺の火薬庫がある」

「…火薬庫」

「儂も、この首を光秀にくれてやるつもりはない。──じゃがその為には、誰かが儂の遺骸をどこぞへ隠すか、

いは、我が身を跡形ものう、この世から吹き飛ばしてしまう以外に方法はない」

「では、上様は……もしやッ」

濃姫が両眼を広げるや否や、信長はヒュン!と、何かを杉戸の境にめがけて放った。
それは床の上でガシャンと音を立てて割れ、周囲に強い油の臭いを漂わせた。

信長は「その…」といて、仏像の前の蝋燭を手に取ると

「 “ まさか ” だ」

火がついたままの蝋燭を、油の上に放った。

「上様ーっ!」

と濃姫が叫んだ瞬間、ゴォッと炎が高く上がり、周囲に散った油へも引火した。

色の炎が、奥にいる信長の姿を隠すように大きく燃え上がった時

「逃げよ!お濃ッ」

「…!」

「逃げよ──!!」

信長がこちらを見つめながら、声の限りに叫んだ。

その光景を目にし、濃姫は芯からうち震えた。


同じだ…

私が初めて本能寺に参ったあの日から、繰り返し見たあの悪夢と…

これで、全てがになってしもうた…


濃姫の目に、落胆と絶望の涙が溢れた。

炎の向こうで、微笑んでいる信長の細面が見える。


『 何故、かような時においになるのですか…。 私を安心させようとしているのですか…。

それとも、今まで良くやってくれたと、私をろうて下さっているのですか… 』


濃姫は疲れ切ったような面差しに、微かな苦笑を浮かべた。


『 …そのどれであろうとも、お濃は嬉しゅうありませぬ。…あなた様のいない世に、お濃の楽も幸もありませぬ… 』


濃姫は頬を涙で濡らしながら、ゆっくりと床の上にれた。

濃姫にはもう泣くことしか出来なかった。

この絶望的な状況もそうだが、炎の奥に消えてゆく夫を前にして、何も出来ない自分がらなく惨めだった。

何と無力なのだろう…。

濃姫が悲痛に顔を歪め、れるように上半身を前に折った時

──ガシャンッ

と音を立てて、寝衣の懐に忍ばせていた道三の短刀が、床の上に転がり落ちた。

その、短刀の柄に金で刻まれていた二頭立波の紋が、濃姫をんだ。


何をしておるのだ、帰蝶…。

斎藤道三の娘じゃと豪語していた、先程までの威勢はどこへいった?


りし日の道三の声が、濃姫の頭の中でこだまのように響いた。



Posted by Curryson  at 17:09 │Comments(0)

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