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2023年04月27日

「やはり腐隊士だ

「やはり腐隊士だ。ビーエル野郎、と申しておる」

 いまのはもちろん、相棒の代弁者たる俊春。
 
 が、囁きではない。

 相棒の顎をかいてやっている伊庭の向こうから、フツーに叩きつけてくる。

「断じてちがう。腐隊士でもBLでもない。だって、伊庭八郎ってすごいんだぞ。そんなすごい人と、タメで付き合えたら素敵じゃないかっ」
を向けてくる相棒。

 顎をかきながら、「こいつ、ヤバイ系か?」、というを向けてくる伊庭。

 玄関のまえまで響き渡ったその宣言に、こっちをみながら大人も子どももひそひそ話をしている。


 顎をかいてもらいながら、虚ろな「伊庭君、すまないな。去皺紋 動態紋改善 動態紋消除 いきなりで驚いたであろう?主計は・・・。ふふっ、大好きなのだ」
「さよう」

 謎めいた俊冬の、ってか、意味わかんねー言葉に、力いっぱい同意する俊春。

 玄関先にいる外野は、いまやひそひそではなく、フツーに「主計の変態野郎」、とかいってるし・・・。

「さぁ伊庭君、副長は奥だ。きたまえ」

 伊庭をうながす俊冬。

 そして、草履を脱いできちんとそれを揃え、双子とともに廊下をあゆみだす伊庭・・・・。

 完璧、誤解されてる・・・。

 冷たい廊下に四つん這いになり、奥へと去ってゆく三つの背をみつめるおれ。

 チーン・・・。

「ウッシッシッシ」

 相棒のケンケン笑いが、身に沁みすぎる。 気になりすぎるので、小姓の仕事をおれがすることにした。

 まあ、もともとそのまとめ役だし、おかしくはないはず。

 つまり、茶をもってゆくのである。

「熱すぎずぬるすぎず、濃すぎず薄すぎず・・・」

 呪文のように呟きながら、慎重に淹れる。

 副長、なんてワガママなんだ。

「だったら、自分で淹れろっていうのよ・・・」

「茶は、女子が淹れるもの」という、昭和チックな会社に勤めるOLのごとく、文句をたれてみる。

 えーっと、茶菓子茶菓子・・・。

 なにせ、よそ様の仮宅なので、勝手がわからない。
 納戸をひらけると、紙に包まれた細長い箱がでてきた。

 羊羹?竿菓子?

 すくなくとも、のもんじゃないよな・・・。

 茶には茶菓子・・・。

 人生でもそうおおくはない、重大な選択に迫られるおれ・・・。 左右をみまわす。だれもいない。

 これに、掌をつけていいのか?奉行所の人に断りもなしに、「ないない(どこかにしまったりする)」していいのか?

「いいじゃねぇか、主計。伏見奉行所つったら、おんなじ幕府の機関。ここにあるもんは、すべておまえのもんだ」
「いいや。ここにあるものは、奉行所の所有物。その権利は、幕府に帰する。勝手につかっていいものではない」

 天使と悪魔、というよりかは「アンパOマン」と「バイキOマン」が、頭のなかで主張しあっている。

 紙包みを無駄にすかしてみる。

 賞味期限の記載なし。包み紙のこすれ方から、ここ1、2か月内に置かれたものとは思えない。

 まさか、お中元の残りもの?

 羊羹だとして、賞味期限ってどのくらいだっけ?

 いや、それ以前に・・・。勝手に開けていいものかどうか・・・。「どうせ、このあと燃えちまうんだ」
「いいや、燃えてしまうとかの問題じゃない」
「燃えちまうくらいだったら、いまここで役立てたほうが、だって本望じゃないか」

「アンパーOチ」が「バイバイOーン」に打ち砕かれそうになった瞬間・・・。

「副長が「茶はまだか」、と仰って・・・。主計、なにをしておる?」

 厨に、俊冬が入ってきた。
 ちかづいてくると、掌から紙包みをとりあげる。

 さっさと紙包みを破く。

 さらにさっさと箱を開けながら、ぴかぴかのまな板の上に置き、さらにぴかぴかの包丁を包丁立てから取り出す。

 包丁もまな板も、俊冬のものである。

 料理人がマイ包丁を晒に巻いてってのは唄にもあるが、かれの場合、背にまな板までしょってることになる。 箱を、二人でのぞき込む。

 箱のなか一面に、粉砂糖っぽいものが・・・。

 洋菓子?

 だとしたら・・・。

 時期的に、シュトーレンか?だったら、をおけばおくほどいいってゆうし・・・。

 そんなわけない、よな。

 俊冬が、おもむろに箱のなかからそれをとりだす。それから、まるで林檎の皮をむくように、包丁をすべらせる。



Posted by Curryson  at 00:42 │Comments(0)

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