2024年11月18日「言葉に気をつけろ。
「言葉に気をつけろ。国親様の側近に聞かれたら首が飛ぶぞ」喧騒が耳に届き、鎬を削る音が聞こえてきた。
視界の隅に、南二の門の櫓の上で何本もの矢を受けて横木にもたれかかっている味方の姿が映った。
暗い空も見える。
命運が尽きかけているにも関わらず恐怖心はなかった。
叩きつけられた体同様、心も麻痺しているのだろうか。
喜八郎たちは無事だろうか。
吹晴山に逃げ込んでいれば可能性はある。
あの岩の下の穴に潜り込み、入口を塞げばよいのだ。
三人で熊を燻り出したあの岩だ。
――だが、二人ともたどり着けなかったようだ。
目と鼻の先で血まみれになり、折り重なるように倒れていた。
三郎は、その中にまぎれて、見過ごされたのだろう。
すまぬ、と心の中で手を合わせた。
もう一働きして、わしもすぐにそちらへ行く。
だが、その機会は与えられそうになかった。
腹巻姿の兵が倒れている童たちに止めを刺しに回ってきたのだ。
すぐに順番が回ってきた。
穂を向けられ、これまでか、と観念した。
が、その時、 https://blog.goo.ne.jp/debsy/e/e95c0b3a100519e2c2be69415739ccb4 https://freelance1.hatenablog.com/entry/2024/11/16/214619?_gl=1*2rumuz*_gcl_au*LTPe21veLZJBRJPdfAmRozqD1N1yu8xRDZ. https://ameblo.jp/freelance12/entry-12875398729.html
「先に進むぞ」
と、兵に声がかかった。
「しかし、皆殺しにせよと……」
「生きていたところで逃げ場もないのだ。なにより手柄にもならぬ」
その言葉に納得したのだろう。
兵は血に濡れた穂を三郎の衣で拭うにとどめた。声をかけた兵は周りを見回し舌打ちする。
梯子のかかった二の郭は、ほぼ制圧されている。
一の郭にはほとんど兵がいない。
混乱を避けるため邸攻めの数はあらかじめ決められていたようだ。
「ここまで一方的になると戦とは言えぬのう」
「楽でよいではないか」
「それはそうじゃが、手柄も立てられぬではないか」
「鬼の子がおろう」
「おお、たいそうな恩賞がかかっておるそうじゃな?」
尋ねられた兵が、それよ、と続けた。
「十二町歩の田が手に入ると聞いたぞ」
相手は、なんと、と言って言葉を失った。
「……ちょっとした領主ではないか。イダテンとは、それほどのものか?」
「知らぬ……が、あやつの親は桁違いに強かったというぞ。なんでも、得物を持った兵、十人を素手で殴り倒したとか」
「一対一は御免じゃな。われらで取り囲んでみるか?」
「おお、こたびは、こわっぱじゃ。四、五人で囲めば間違いはあるまい」
「ならば急ごう」
――おお、イダテン。やはり、おまえはたいしたものだ。
わしと同じ年で首に恩賞がかかるとは。
しかも、皇子さまを守って死んだという、我が、ご先祖様に引けを取らぬほどの恩賞ぞ。邸の背後にある吹晴山と長者山に目をやった。
連なる尾根沿いに旗は立っていない。
逃げられまいとたかをくくっているのだ。
ならば、姫様のもとに駆けつけ、山に登ってわずかなりとも時を稼ごう。
イダテンは必ず帰ってくる。
あいつはそういう男だ。
それまで持ちこたえるのだ。
左手の指が動いた。
首が動いた。
かたわらに転がっていた矛に手を伸ばし、それを杖代わりに山を見上げ、震える足を叱咤して、ようやく立ち上がった。
――突然、左足に火箸を突きたてられたような衝撃が走った。
棒のようになって顔から地面に倒れ落ちた。
郭の外から降り注いできた矢の一本が、三郎の左のふくらはぎに突き刺さったのだ。
痛いなどという言葉では表せない。
頭の中が針で掻き混ぜられたようだ。
足が、視界が、あっというまに真っ赤に染まる。
あってはならぬことだった。
後方から矢が突き刺さったのだ――これでは敵に後ろを見せたようではないか。
動けぬ。
くそ、動け、動くのじゃ。
くそっ、なんということじゃ!
姫様を助けに行かねばならぬのじゃ。
ミコとおかあを助けに行かねばならぬのじゃ。
たのむ。
動け、動いてくれ!
左目に血が入り込む。
目が霞む。
目が見えぬ。
せめて姫様を守らねば……兄者と約束したのじゃ。
わしは武門の子じゃ。
わが身を盾にしてでも主人を守らねばならぬのだ。
視界の隅に、南二の門の櫓の上で何本もの矢を受けて横木にもたれかかっている味方の姿が映った。
暗い空も見える。
命運が尽きかけているにも関わらず恐怖心はなかった。
叩きつけられた体同様、心も麻痺しているのだろうか。
喜八郎たちは無事だろうか。
吹晴山に逃げ込んでいれば可能性はある。
あの岩の下の穴に潜り込み、入口を塞げばよいのだ。
三人で熊を燻り出したあの岩だ。
――だが、二人ともたどり着けなかったようだ。
目と鼻の先で血まみれになり、折り重なるように倒れていた。
三郎は、その中にまぎれて、見過ごされたのだろう。
すまぬ、と心の中で手を合わせた。
もう一働きして、わしもすぐにそちらへ行く。
だが、その機会は与えられそうになかった。
腹巻姿の兵が倒れている童たちに止めを刺しに回ってきたのだ。
すぐに順番が回ってきた。
穂を向けられ、これまでか、と観念した。
が、その時、 https://blog.goo.ne.jp/debsy/e/e95c0b3a100519e2c2be69415739ccb4 https://freelance1.hatenablog.com/entry/2024/11/16/214619?_gl=1*2rumuz*_gcl_au*LTPe21veLZJBRJPdfAmRozqD1N1yu8xRDZ. https://ameblo.jp/freelance12/entry-12875398729.html
「先に進むぞ」
と、兵に声がかかった。
「しかし、皆殺しにせよと……」
「生きていたところで逃げ場もないのだ。なにより手柄にもならぬ」
その言葉に納得したのだろう。
兵は血に濡れた穂を三郎の衣で拭うにとどめた。声をかけた兵は周りを見回し舌打ちする。
梯子のかかった二の郭は、ほぼ制圧されている。
一の郭にはほとんど兵がいない。
混乱を避けるため邸攻めの数はあらかじめ決められていたようだ。
「ここまで一方的になると戦とは言えぬのう」
「楽でよいではないか」
「それはそうじゃが、手柄も立てられぬではないか」
「鬼の子がおろう」
「おお、たいそうな恩賞がかかっておるそうじゃな?」
尋ねられた兵が、それよ、と続けた。
「十二町歩の田が手に入ると聞いたぞ」
相手は、なんと、と言って言葉を失った。
「……ちょっとした領主ではないか。イダテンとは、それほどのものか?」
「知らぬ……が、あやつの親は桁違いに強かったというぞ。なんでも、得物を持った兵、十人を素手で殴り倒したとか」
「一対一は御免じゃな。われらで取り囲んでみるか?」
「おお、こたびは、こわっぱじゃ。四、五人で囲めば間違いはあるまい」
「ならば急ごう」
――おお、イダテン。やはり、おまえはたいしたものだ。
わしと同じ年で首に恩賞がかかるとは。
しかも、皇子さまを守って死んだという、我が、ご先祖様に引けを取らぬほどの恩賞ぞ。邸の背後にある吹晴山と長者山に目をやった。
連なる尾根沿いに旗は立っていない。
逃げられまいとたかをくくっているのだ。
ならば、姫様のもとに駆けつけ、山に登ってわずかなりとも時を稼ごう。
イダテンは必ず帰ってくる。
あいつはそういう男だ。
それまで持ちこたえるのだ。
左手の指が動いた。
首が動いた。
かたわらに転がっていた矛に手を伸ばし、それを杖代わりに山を見上げ、震える足を叱咤して、ようやく立ち上がった。
――突然、左足に火箸を突きたてられたような衝撃が走った。
棒のようになって顔から地面に倒れ落ちた。
郭の外から降り注いできた矢の一本が、三郎の左のふくらはぎに突き刺さったのだ。
痛いなどという言葉では表せない。
頭の中が針で掻き混ぜられたようだ。
足が、視界が、あっというまに真っ赤に染まる。
あってはならぬことだった。
後方から矢が突き刺さったのだ――これでは敵に後ろを見せたようではないか。
動けぬ。
くそ、動け、動くのじゃ。
くそっ、なんということじゃ!
姫様を助けに行かねばならぬのじゃ。
ミコとおかあを助けに行かねばならぬのじゃ。
たのむ。
動け、動いてくれ!
左目に血が入り込む。
目が霞む。
目が見えぬ。
せめて姫様を守らねば……兄者と約束したのじゃ。
わしは武門の子じゃ。
わが身を盾にしてでも主人を守らねばならぬのだ。
2024年11月18日「心配するな。おかあは、すぐに帰ってくる
「心配するな。おかあは、すぐに帰ってくる。イダテンも、すぐに帰ってくる。あやつは情にもろいでな。いっぱい泣いて、抱きついてやれ。そうすれば、もう出てはいけまいて」
「ほんと?」
「おお、兄者を信じろ」
と、いって、南二の門を指差した。
ミコが振り返ると、ミコの名を呼びながら、門から出てくるヨシの姿が見えた。
「ほれ、おかあが戻ってきたぞ。兄者の言った通りであろう。さあ」
といって、手のひらで軽く背中を押した。
ミコは、涙をぽろぽろとこぼし、嗚咽しながら駆け出した。三郎は目の前にある東一の門の横に建つ櫓によじ登った。
梯子はついていない。
櫓そのものの高さは二間ほどだが、邸を囲む郭も高所にあるので見晴らしは良い。
国府の街並みと田畑と川、そして三方を囲む山々と、その先にある海を見つめる。
イダテンが狼煙だといった煙が、またひとつ増えていた。
向洋の方向だ。
イダテンがおればと、弱気になった。https://plaza.rakuten.co.jp/aisha1579/diary/202411160005/ https://blog.goo.ne.jp/debsy/e/ce0c737b0742b6412295dfa2c2440203 https://freelance1.hatenablog.com/entry/2024/11/16/203319?_gl=1*5z1lgi*_gcl_au*LTPe21veLZJBRJPdfAmRozqD1N1yu8xRDZ.
「三郎、何をしている」
と、いう声に振り返ると、櫓の下に九郎や喜八郎の姿があった。
仲間も入れれば十五人はいるだろう。
見れば宗我部に親や親族を討たれた者ばかりだ。
喜八郎が怒ったように訊ねてきた。
「赤目の国親が攻めてくるとは、まことのことか?」
侍や下男たちとのやり取りを聞いた者がいたのだろう。
姫様の唐猫の死にざまも耳にしていよう。
目の前にいる者たちは皆、国親がいかに残虐な男かを知っている。
皆が固唾を飲んで三郎の答えを待っていた。
欲しているのは、国親が攻めてくる理由ではない。
背筋に冷や汗が流れる。
三郎は、覚悟を決めて答えた。
「間違うておれば、この首を差し出そう」
そこにいる者すべてが息を飲んだ。「いつだ?」
と、訊いてきた喜八郎に、高く上がる黒い煙を指差した。
「今宵か?」
三郎がうなずくと、皆の間に動揺が走った。
「まことか?」
と、声を上げる者もいる。
硬い表情の喜八郎が手で制する。
「ならば……わしらも手伝おう」
つばを飲み込んで九郎もうなずいた。
決意が見て取れた。
三郎と同様、恨みは深い。
「おおっ、おまえ達が力を貸してくれれば百人力じゃ」
「おう、とも! われらが恩を返すはこのときじゃ」
「むろん、積もり積もった恨みもな」
目頭が、つんと熱くなる。
これが武門に生まれた者の絆というものだ。
「頼む……まずはこれじゃ」
鍵がついた板を景気よく放り投げた。
受け取った喜八郎は、にやりと笑う。
どこの鍵かわかったのだ。
「やりおったな」
「ミコの手柄じゃ」
「鷲尾にばかり手柄をあげさせるわけにはいかぬ。次は、わしらの番じゃ!」
喜八郎が振り返ると、
「おう!」と、皆が声をあげた。
やってくれるに違いない。
笑みを浮かべ指図する。
「喜八郎は武器庫を開けてくれ。十人で持ち出し、要所要所に置いて回れ。門の近くには多めにな」
「おう、援軍も増やし、あっという間に、やり遂げて見せよう。馬で乗りこまれぬよう、牛車橋も上げておくで」 「九郎は、五人ほどで手分けして忠信様を探してくれ。忠信様にお伝えするのじゃ。姫様を連れて逃げる算段をせよと。三郎とイダテンが言うておった、と」
「そのイダテンは何をしておる」
九郎が、苛立たしげに口にした。
「国司様を助けに薬王寺へ向こうた」
その一言で、いかに切迫しているかが分かったのだろう。
皆が黙り込んだ。
それでも九郎だけは、鼻をふんと鳴らし強がって見せた。
「――よし、わかった。必ず伝えよう……おい、喜八郎。どちらが先か競おうぞ」
「おう!」
「ほんと?」
「おお、兄者を信じろ」
と、いって、南二の門を指差した。
ミコが振り返ると、ミコの名を呼びながら、門から出てくるヨシの姿が見えた。
「ほれ、おかあが戻ってきたぞ。兄者の言った通りであろう。さあ」
といって、手のひらで軽く背中を押した。
ミコは、涙をぽろぽろとこぼし、嗚咽しながら駆け出した。三郎は目の前にある東一の門の横に建つ櫓によじ登った。
梯子はついていない。
櫓そのものの高さは二間ほどだが、邸を囲む郭も高所にあるので見晴らしは良い。
国府の街並みと田畑と川、そして三方を囲む山々と、その先にある海を見つめる。
イダテンが狼煙だといった煙が、またひとつ増えていた。
向洋の方向だ。
イダテンがおればと、弱気になった。https://plaza.rakuten.co.jp/aisha1579/diary/202411160005/ https://blog.goo.ne.jp/debsy/e/ce0c737b0742b6412295dfa2c2440203 https://freelance1.hatenablog.com/entry/2024/11/16/203319?_gl=1*5z1lgi*_gcl_au*LTPe21veLZJBRJPdfAmRozqD1N1yu8xRDZ.
「三郎、何をしている」
と、いう声に振り返ると、櫓の下に九郎や喜八郎の姿があった。
仲間も入れれば十五人はいるだろう。
見れば宗我部に親や親族を討たれた者ばかりだ。
喜八郎が怒ったように訊ねてきた。
「赤目の国親が攻めてくるとは、まことのことか?」
侍や下男たちとのやり取りを聞いた者がいたのだろう。
姫様の唐猫の死にざまも耳にしていよう。
目の前にいる者たちは皆、国親がいかに残虐な男かを知っている。
皆が固唾を飲んで三郎の答えを待っていた。
欲しているのは、国親が攻めてくる理由ではない。
背筋に冷や汗が流れる。
三郎は、覚悟を決めて答えた。
「間違うておれば、この首を差し出そう」
そこにいる者すべてが息を飲んだ。「いつだ?」
と、訊いてきた喜八郎に、高く上がる黒い煙を指差した。
「今宵か?」
三郎がうなずくと、皆の間に動揺が走った。
「まことか?」
と、声を上げる者もいる。
硬い表情の喜八郎が手で制する。
「ならば……わしらも手伝おう」
つばを飲み込んで九郎もうなずいた。
決意が見て取れた。
三郎と同様、恨みは深い。
「おおっ、おまえ達が力を貸してくれれば百人力じゃ」
「おう、とも! われらが恩を返すはこのときじゃ」
「むろん、積もり積もった恨みもな」
目頭が、つんと熱くなる。
これが武門に生まれた者の絆というものだ。
「頼む……まずはこれじゃ」
鍵がついた板を景気よく放り投げた。
受け取った喜八郎は、にやりと笑う。
どこの鍵かわかったのだ。
「やりおったな」
「ミコの手柄じゃ」
「鷲尾にばかり手柄をあげさせるわけにはいかぬ。次は、わしらの番じゃ!」
喜八郎が振り返ると、
「おう!」と、皆が声をあげた。
やってくれるに違いない。
笑みを浮かべ指図する。
「喜八郎は武器庫を開けてくれ。十人で持ち出し、要所要所に置いて回れ。門の近くには多めにな」
「おう、援軍も増やし、あっという間に、やり遂げて見せよう。馬で乗りこまれぬよう、牛車橋も上げておくで」 「九郎は、五人ほどで手分けして忠信様を探してくれ。忠信様にお伝えするのじゃ。姫様を連れて逃げる算段をせよと。三郎とイダテンが言うておった、と」
「そのイダテンは何をしておる」
九郎が、苛立たしげに口にした。
「国司様を助けに薬王寺へ向こうた」
その一言で、いかに切迫しているかが分かったのだろう。
皆が黙り込んだ。
それでも九郎だけは、鼻をふんと鳴らし強がって見せた。
「――よし、わかった。必ず伝えよう……おい、喜八郎。どちらが先か競おうぞ」
「おう!」