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2023年12月15日

「…………皆の思いはどうなります」

「…………皆の思いはどうなります」


 思わず出た言葉は思ったよりも女々しい。女は感情の生き物だとはよく言ったものだ。溢れ出る思いを抑え込むことは出来ない、いや今抑えてしまっては後悔すると思った。


「……永倉先生達は、局長の指揮を遂行せんと必死に戦っていました。沖田先生は、局長のことが心配であの身体に鞭を打って行軍に参加したんです。土方副長は局長のために戦をしようと──!」


 何処かで砲台の音が聞こえる。https://www.bly.com/blog/writing/the-absolute-best-thing-about-mainstream-book-publishing/#comment-1714407 https://jmfaye.free.fr/index.php?article1/introduction#c7737935680-1 https://badbuyerlist.org/buyer/721d40e2d365094e745e9fed 放たれた火で木が倒れる音が聞こえる。それに負けじと声を張り上げた。

 もはや、己を見失いかけた彼には、情に訴えるしか方法が無い──そう信じて必死に言葉を繋いだ。


「今、ここで死んでしまったら、皆が後悔します!貴方を信じている人がまだ居ることを、ゆめ忘れられるなッ」


 そこまで言い切ると、桜司郎は荒くなった呼吸を整える。

 近藤は切なげに目を細めながら、その姿を見やった。



「…………そうか、俺はまだ皆を……」


 ポツリと呟くと、苦々しそうに視線を落とす。



「……付けるべき始末が残っていたようだ。君の言う通りに、俺も撤退しよう。道を開いてくれるか」


 その言葉は決して良い意味では無いだろう。だが、少なくとも今死ぬ気では無くなったことに一先ず安堵の息を吐いた。

 そして、力強く頷く。


「お任せを。榊桜司郎、この刀にかけて局長を江戸まで御守りします──」


 目立ちそうな陣羽織はその場に捨て置かせると、桜司郎は先陣を切って慎重に進んだ。

 その間も、一言も近藤から言葉を発することはない。





 やがて八王子に差し掛かった辺りで、土方と合流することが出来た。無論援軍などは連れていない。無事を喜んではいたが、早すぎる敗戦に眉間の皺を深くしていた。

 だが責める言葉は一つも吐かず、ただ「良く無事だった」と言った。


 近藤を無事に土方へと引き合せることが出来た安心のためか、途端に気持ちが緩む。来た道を振り返れば、夕陽を飲み込んでいく甲府の山脈へと烏達が吸い込まれていった。 江戸へと戻った甲陽鎮撫隊は、散り散りになりながらも和泉橋医学所へと集っていた。

 否、もはや甲陽鎮撫隊にて集った新しい隊士達の殆どは此処には居ない。あっさりと負けたことに失望したのか、はたまた臆病風が吹いたのかは彼らしか知らないことだ。


 元から新撰組に名を連ねている者や、近藤らと縁の深い者、意地の強い者だけが此処に居る。

 しかし、永倉と原田は少し遅れての合流となった。無事を喜ぶことも無く、そのまま近藤や土方と話したいと言って人払いをしたのだ。


 今後を話すというなら、桜司郎や山口を含めた幹部で話すだろう。二人が纏ったあの妙な空気には、嫌な予感しかしなかった。


 奥の部屋へ籠ってから、ほんの半刻しか経たないというのに時が長く感じてならない。



 桜司郎は騒ぐ気持ちを抑えようと、草履を突っかけるようにして履き、外へと出た。

 門前に垂れた細い枝の先には、小さな芽が生まれていた。もう春がそこに来ていることを初めて知る。


「……あ。あそこにも芽が……」


 見上げると、固い芽がポツポツとその存在を主張していた。

 白い息を吐きながら、それを見詰めていると背後から人の気配を感じた。


 振り向くよりも先に、肩へ半纏が掛けられる。



Posted by Curryson  at 17:47 │Comments(0)

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