2024年06月26日「姫様、そろそろ中へお入り下さいませ
「姫様、そろそろ中へお入り下さいませ。お手習いの最中でございますよ」
縁台のが呼びかけて来る。
しかし帰蝶は、まるで意に介さずといったちで、降りやむことを知らない風花と戯れ続けていた。
一つのことに夢中になると、なかなかそこから抜け出せない性分である。
三保野はれを切らしたように帰蝶の側まで歩み寄ると
「姫様、お風邪を召されまする。早ようお部屋の中へ」 http://jennifer92.livedoor.blog/archives/36127604.html https://note.com/ayumu6567/n/nb12a2e983712?sub_rt=share_pb http://jennifer92.livedoor.blog/archives/36127666.html
ややしい声色で入室をした。
帰蝶ははっと我に返ったように三保野を認めると、幼いが端麗なそのを浮かべた。
「見て三保野。こんなにが照っているというのに、雪が降っておる──。美濃では珍しい事よのう」
「雪ではございませぬ。風花と申すのですよ」
「かざはな?」
「今日のように寒々とした晴天の日に、ちらちらと舞い降る雪のことにございます」
「なれど雪は雪であろう」
「それは…そうでございますが」
「しなものじゃ。このような小さく冷たい塊を、花に例えるとは」
「姫様。それが人のというものにございますよ」
三保野はを取り出すと、濡れた帰蝶の小袖を、軽く押さえるようにしていてやった。
「ほんにしきことにございますな」
「何がじゃ」
「しく、ご才知にも富んだ姫様でございますのに、このようにお転婆では…」
「え甲斐があるであろう?」
「また姫様は。冗談で申しているのではございませぬぞ」
帰蝶は一人くすくすと笑いながら、足早に部屋の中へ入ってゆく。
三保野はすぐにその背を追ったが、彼女の小言は止まらなかった。
「姫様にはご幼少の頃より仕えておりまするが、和歌、茶の湯、花と、姫様は数々のにも優れたるにございます。また乗馬やのお腕も──」
「馬は人並み程度じゃ。それに槍がお得意なのは父上様であって、私ではない」
「これは、失礼を致しました」
三保野はあっとなって 皆は、私に文武両道を求めるのであろうか」
先程までの明るい表情から一転、帰蝶は不快そうに顔をめた。
三保野の言う通り、帰蝶は幼い頃から優秀な姫であった。
学問や数々の素養だけでなく、洞察力にも秀でており
《 まことに惜しい事じゃ。帰蝶が男であったならば、この美濃の名将になったであろうに 》
と道三も口癖のように言う程、よく出来た姫であった。
だが、そんな帰蝶の評判が家中のみならず民にまで広まるようになると
『 あの道三様の姫君とあれば、さぞや勝ち気で、何にもじしないご性格なんだろうよ 』
『 きっとは殿様に似て、武術にもごが深いのであろう 』
などと、勝手な心象が独り歩きし始めた。
確かに帰蝶は少々お転婆なところはあるが、勝ち気、ましてや何にも物怖じしない性格などではない。
見ず知らずの人間の前では普通に緊張もするし、ネズミ一匹死んでいるのを見ただけでも慌ててしまう。
武術よりも、庭の花を眺めたり、物語を読んで空想をらませたりする方がずっと好きだった。
「という弟たち。母は異なれどの兄上もいるというのに、何故こうも私ばかりが父上様と重ねて見られるのであろう」
部屋の上座に腰を下ろしながら、帰蝶はそうに呟く。
「それは姫様がのお方だからでございましょう」
「 ? 」
「兄上様や弟君様とは違い、姫様は常に城の奥におわし、の方々とのご対面も数える程。
これでは誰も、姫様の本当のご気性を知り得る事など出来ませぬ。に民たちも、殿のお人柄から、姫様の人となりをご推知なされようとしているのでしょう」
「…そうなのであろうか ?」
「ええ、きっと。不明確な事に程、人は想像をき立てられるものですから」
三保野に説かれ、帰蝶は完全に納得していないながらも
「そなたがそう言うのならば──そういう事にしておこうか」
と、心持ち
縁台のが呼びかけて来る。
しかし帰蝶は、まるで意に介さずといったちで、降りやむことを知らない風花と戯れ続けていた。
一つのことに夢中になると、なかなかそこから抜け出せない性分である。
三保野はれを切らしたように帰蝶の側まで歩み寄ると
「姫様、お風邪を召されまする。早ようお部屋の中へ」 http://jennifer92.livedoor.blog/archives/36127604.html https://note.com/ayumu6567/n/nb12a2e983712?sub_rt=share_pb http://jennifer92.livedoor.blog/archives/36127666.html
ややしい声色で入室をした。
帰蝶ははっと我に返ったように三保野を認めると、幼いが端麗なそのを浮かべた。
「見て三保野。こんなにが照っているというのに、雪が降っておる──。美濃では珍しい事よのう」
「雪ではございませぬ。風花と申すのですよ」
「かざはな?」
「今日のように寒々とした晴天の日に、ちらちらと舞い降る雪のことにございます」
「なれど雪は雪であろう」
「それは…そうでございますが」
「しなものじゃ。このような小さく冷たい塊を、花に例えるとは」
「姫様。それが人のというものにございますよ」
三保野はを取り出すと、濡れた帰蝶の小袖を、軽く押さえるようにしていてやった。
「ほんにしきことにございますな」
「何がじゃ」
「しく、ご才知にも富んだ姫様でございますのに、このようにお転婆では…」
「え甲斐があるであろう?」
「また姫様は。冗談で申しているのではございませぬぞ」
帰蝶は一人くすくすと笑いながら、足早に部屋の中へ入ってゆく。
三保野はすぐにその背を追ったが、彼女の小言は止まらなかった。
「姫様にはご幼少の頃より仕えておりまするが、和歌、茶の湯、花と、姫様は数々のにも優れたるにございます。また乗馬やのお腕も──」
「馬は人並み程度じゃ。それに槍がお得意なのは父上様であって、私ではない」
「これは、失礼を致しました」
三保野はあっとなって 皆は、私に文武両道を求めるのであろうか」
先程までの明るい表情から一転、帰蝶は不快そうに顔をめた。
三保野の言う通り、帰蝶は幼い頃から優秀な姫であった。
学問や数々の素養だけでなく、洞察力にも秀でており
《 まことに惜しい事じゃ。帰蝶が男であったならば、この美濃の名将になったであろうに 》
と道三も口癖のように言う程、よく出来た姫であった。
だが、そんな帰蝶の評判が家中のみならず民にまで広まるようになると
『 あの道三様の姫君とあれば、さぞや勝ち気で、何にもじしないご性格なんだろうよ 』
『 きっとは殿様に似て、武術にもごが深いのであろう 』
などと、勝手な心象が独り歩きし始めた。
確かに帰蝶は少々お転婆なところはあるが、勝ち気、ましてや何にも物怖じしない性格などではない。
見ず知らずの人間の前では普通に緊張もするし、ネズミ一匹死んでいるのを見ただけでも慌ててしまう。
武術よりも、庭の花を眺めたり、物語を読んで空想をらませたりする方がずっと好きだった。
「という弟たち。母は異なれどの兄上もいるというのに、何故こうも私ばかりが父上様と重ねて見られるのであろう」
部屋の上座に腰を下ろしながら、帰蝶はそうに呟く。
「それは姫様がのお方だからでございましょう」
「 ? 」
「兄上様や弟君様とは違い、姫様は常に城の奥におわし、の方々とのご対面も数える程。
これでは誰も、姫様の本当のご気性を知り得る事など出来ませぬ。に民たちも、殿のお人柄から、姫様の人となりをご推知なされようとしているのでしょう」
「…そうなのであろうか ?」
「ええ、きっと。不明確な事に程、人は想像をき立てられるものですから」
三保野に説かれ、帰蝶は完全に納得していないながらも
「そなたがそう言うのならば──そういう事にしておこうか」
と、心持ち
Posted by Curryson
at 22:29
│Comments(0)