2023年12月11日「私は、新撰組のことも、お二人のことも、大好きです
「私は、新撰組のことも、お二人のことも、大好きです……。ですから、ですから……、迷惑をかけたくな───」
言い切る前に、身体に衝撃が走った。ふわりと鼻腔を香が掠める。控えめで優しい匂い。桜司郎が抱き着いてきたのだと直ぐに分かった。
その肩は大きく震え、縋るように馬越の肩口へ顔を埋めている。三年の付き合いとなるが、桜司郎がこのように弱さを見せるのは初めてだった。松原の時ですら、気丈に振舞っていたのだから。
「ごめ、ッ、ごめん……ごめんね……。馬越君ひとりに、全部、背負わせてしまったッ……」
何度も謝罪の言葉を続けた細い身体を抱き締め返す。https://johnsmith786.mystrikingly.com/blog/5c3cdf1896a https://carinacyril786.livedoor.blog/archives/1003149.html https://note.com/carinacyril786/n/na5d803a97efe?sub_rt=share_pb 口を開けば自身も泣いてしまいそうだったため、代わりにその背をぽんぽんと撫でた。
誰からも愛され、かつ最強と謳われる沖田の後継という重圧をひとりで背負っているのだ。尊敬こそすれ、誰が恨み言など言えようか。
温い風が頬を撫で、涙を攫っていく。どれだけ時を惜しもうとも、待ってはくれないのだ。 馬越が隊を去り、やがて暑い夏が来た。この年は例年に比べて猛暑日が続き、屈強な新撰組隊士と言えども体調を崩す者が増えた。
特に病床の身である沖田をみ、何日も起き上がれぬ時すらあった。
やっとの思いで夏を越え、風が涼しさを帯びる頃。土方は沖田の部屋を訪れていた。
沖田は部屋の真ん中に敷かれた布団で寝ていたが、話し声に気付き、薄らと目を開けては傍らに座る土方と桜司郎へ視線を向ける。
「ひじ、かた……さん?どうしましたか……」
「ああ、起こしちまったか。具合は……良くは無さそうだな」
「身体は……言うことを聞いてくれませんが……。気分は良いですよ。さっきも夢を、見て……」
熱い息を吐きながら穏やかに笑う男が、やけに幼く見えた。昔を思い出した土方は、その頭を撫でる。
「夢か。どんなモンだ」
「江戸に居た頃の夢です……。皆と道場で稽古をして、水を浴びて、縁側で西瓜を食べました……」
病に冒されているせいか、寂しいのだろう。やけに昔の夢ばかり見るのだ。
「そりゃあ……良いな。西瓜が食いてえのか?まだどっかに売ってんだろう。買って来させる」
そう言うと、土方は部屋の隅に控える市村へ目配せをする。すっかり小姓役が板についた彼は素早く立ち上がると、部屋を出て行った。
「……催促したみたいで悪いなァ…………。あの子は?昔の平助みたいな子ですね」
「最近入った隊士でな、俺の小姓の市村鉄之助ってんだ。よく茶は零すし、剣の腕も良くないが気は効く」
「…………ふふ。貴方が褒めるなんて、良い子なんですね。ああ……斎藤君と平助は元気にしているかな」
その言葉に桜司郎はドキリとする。御陵衛士については、触れることを許されないような空気が流れているのだ。隊務から離れているとはいえ、沖田も知らぬわけでは無い。
だが、土方は咎める訳でもなく、むしろ申し訳無さそうに目を細めた。
「どうだろうな」
「ふたりとも、帰ってくればいいのに……」
心からの言葉なのだろう。熱で潤んだ瞳は真剣な色を湛えていた。普段は冗談でもこのようなことは言わなかったはずなのだが、何かが不安なのだろう。
桜司郎はそれに心当たりがあった。新撰組と御陵衛士の関係性が更に悪化しているのである。公然と伊東は新撰組を非難していると聞くが、それに対して意外と新撰組は御陵衛士を無視している。逆にそれが嵐の前の静けさのようで不気味だった。
この部屋に出入りしているのは桜司郎だけではない。故に風の噂で沖田の耳にも入っていたのかも知れない。
不安の色を隠さない沖田を見るのは初めてで、桜司郎の中に何かが芽生え始めた。
言い切る前に、身体に衝撃が走った。ふわりと鼻腔を香が掠める。控えめで優しい匂い。桜司郎が抱き着いてきたのだと直ぐに分かった。
その肩は大きく震え、縋るように馬越の肩口へ顔を埋めている。三年の付き合いとなるが、桜司郎がこのように弱さを見せるのは初めてだった。松原の時ですら、気丈に振舞っていたのだから。
「ごめ、ッ、ごめん……ごめんね……。馬越君ひとりに、全部、背負わせてしまったッ……」
何度も謝罪の言葉を続けた細い身体を抱き締め返す。https://johnsmith786.mystrikingly.com/blog/5c3cdf1896a https://carinacyril786.livedoor.blog/archives/1003149.html https://note.com/carinacyril786/n/na5d803a97efe?sub_rt=share_pb 口を開けば自身も泣いてしまいそうだったため、代わりにその背をぽんぽんと撫でた。
誰からも愛され、かつ最強と謳われる沖田の後継という重圧をひとりで背負っているのだ。尊敬こそすれ、誰が恨み言など言えようか。
温い風が頬を撫で、涙を攫っていく。どれだけ時を惜しもうとも、待ってはくれないのだ。 馬越が隊を去り、やがて暑い夏が来た。この年は例年に比べて猛暑日が続き、屈強な新撰組隊士と言えども体調を崩す者が増えた。
特に病床の身である沖田をみ、何日も起き上がれぬ時すらあった。
やっとの思いで夏を越え、風が涼しさを帯びる頃。土方は沖田の部屋を訪れていた。
沖田は部屋の真ん中に敷かれた布団で寝ていたが、話し声に気付き、薄らと目を開けては傍らに座る土方と桜司郎へ視線を向ける。
「ひじ、かた……さん?どうしましたか……」
「ああ、起こしちまったか。具合は……良くは無さそうだな」
「身体は……言うことを聞いてくれませんが……。気分は良いですよ。さっきも夢を、見て……」
熱い息を吐きながら穏やかに笑う男が、やけに幼く見えた。昔を思い出した土方は、その頭を撫でる。
「夢か。どんなモンだ」
「江戸に居た頃の夢です……。皆と道場で稽古をして、水を浴びて、縁側で西瓜を食べました……」
病に冒されているせいか、寂しいのだろう。やけに昔の夢ばかり見るのだ。
「そりゃあ……良いな。西瓜が食いてえのか?まだどっかに売ってんだろう。買って来させる」
そう言うと、土方は部屋の隅に控える市村へ目配せをする。すっかり小姓役が板についた彼は素早く立ち上がると、部屋を出て行った。
「……催促したみたいで悪いなァ…………。あの子は?昔の平助みたいな子ですね」
「最近入った隊士でな、俺の小姓の市村鉄之助ってんだ。よく茶は零すし、剣の腕も良くないが気は効く」
「…………ふふ。貴方が褒めるなんて、良い子なんですね。ああ……斎藤君と平助は元気にしているかな」
その言葉に桜司郎はドキリとする。御陵衛士については、触れることを許されないような空気が流れているのだ。隊務から離れているとはいえ、沖田も知らぬわけでは無い。
だが、土方は咎める訳でもなく、むしろ申し訳無さそうに目を細めた。
「どうだろうな」
「ふたりとも、帰ってくればいいのに……」
心からの言葉なのだろう。熱で潤んだ瞳は真剣な色を湛えていた。普段は冗談でもこのようなことは言わなかったはずなのだが、何かが不安なのだろう。
桜司郎はそれに心当たりがあった。新撰組と御陵衛士の関係性が更に悪化しているのである。公然と伊東は新撰組を非難していると聞くが、それに対して意外と新撰組は御陵衛士を無視している。逆にそれが嵐の前の静けさのようで不気味だった。
この部屋に出入りしているのは桜司郎だけではない。故に風の噂で沖田の耳にも入っていたのかも知れない。
不安の色を隠さない沖田を見るのは初めてで、桜司郎の中に何かが芽生え始めた。